日本高血圧学会によると現在、日本における高血圧患者は約4,300万人と推定されている。また、厚生労働省の「平成22年国民健康・栄養調査」によると、30歳以上の男性の約6割は高血圧であるという。諸外国と比べて日本における高血圧症者の治療率や血圧コントロール率は、いずれも5割程度と低いのが現状だ。

今年4月には、日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン2019の公表が予定されている。海外のガイドラインは、2017年に米国、2018年に欧州で改訂され、患者の降圧目標として上(収縮期血圧)130/下(拡張期血圧)80mmHg未満が推奨されたため、現在、日本の高血圧の基準とされている上140/下90が、海外と同様の上130/下80まで引き下げられるものとみられている。さらに近年は、健康診断の時の血圧が正常でも職場などで一時的に血圧が上昇する「仮面高血圧」や、若い世代の高血圧の増加が問題になっている。

高血圧は、「サイレント・キラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれるほど、ほとんど自覚症状がないのが特徴だ。しかし、脳梗塞や心筋梗塞など、命にかかわる、または一命を取り留めたとしても重い後遺症が残る脳・心血管疾患を引き起こす大きな要因となる。そこで、将来のそのような事態を避けるべく、内科医の山本祐歌医師に高血圧の原因や症状、治療法などについてうかがった。

  • 高血圧は脳梗塞や心筋梗塞など、命にかかわる疾患の要因になる

    高血圧は脳梗塞や心筋梗塞など、命にかかわる疾患の要因になる

高血圧とは?

心臓から送り出された血液が、血管壁にかかる圧力のことを血圧(血管抵抗)と呼び、血圧が高い状態が慢性的に続くことを高血圧という。心臓が血液を送り出す時の血圧を「収縮期血圧」と呼び、全身を巡った血液が心臓に戻るときの血圧を「拡張期血圧」とうが、いわゆる「上の血圧」というのが収縮期血圧で、「下の血圧」というのが拡張期血圧。国内においては現在、上が140mmHg以上、下が90mmHg以上(140/90)が高血圧と定義される。

高血圧の原因

山本医師によると、高血圧は主に「本態性高血圧」と「二次性高血圧」との2種類に分けられるという。

本態性高血圧

一般的には本態性高血圧が、日本人全体の高血圧患者の9割近くであり、原因がはっきりしていない。遺伝的に高血圧になりやすい体質であることや、タバコ、ストレス、運動不足、塩分のとりすぎといった、さまざまな要素が複雑に絡みあうことで発症すると考えられる。

遺伝との関係については、たとえば両親や祖父母の中に高血圧の人がいるのであれば、自分も将来、高血圧を発症するリスクを持っていると自覚することが必要だ。そのうえで、「塩分控えめな食事にする」「体重管理をする」「ストレスをためない」「しっかり睡眠をとる」「喫煙しない」など、日常生活で注意をすることも大切だ。

二次性高血圧

二次性高血圧は、他の疾患や薬剤によって引き起こされる、原因がはっきりしているもの。二次性高血圧の中でも、内分泌性高血圧の頻度が高く、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫など副腎系ホルモンの過剰分泌によるものや、甲状腺機能異常、先端巨大症など多岐にわたる。

高血圧が招く疾患リスク

この高血圧を放置すると、動脈硬化性疾患などの大血管障害を引き起こすリスクがあると山本医師は警鐘を鳴らす。

「大血管障害には血の塊が脳の血管に詰まる『脳梗塞』や、冠動脈内に血栓ができることで血流がほとんど止まって通じなくなり、酸欠と栄養不足から心筋の一部が壊死する『心筋梗塞』、冠動脈の中が動脈硬化のために狭くなり、心臓の筋肉に血液・酸素が十分に送られなくなる『狭心症』、手や足の動脈が狭窄・閉塞して栄養や酸素を十分に送り届けることができなくなり、手先や足先が冷たくなったり、筋肉の痛みが出たりする『閉塞性動脈硬化症』などがあります」

また、慢性腎臓病(CKD)を引き起こすこともあるという。腎臓は体内の余分な塩分と水分を尿として排出し、血圧の調節を助けているが、高血圧が長く続くと腎臓の血管が傷み、腎硬化症を発病しやすくなる。

その結果、腎臓の機能が低下し、水分やナトリウムの排泄量が減り、体内に水分やナトリウムがたまってしまう。動脈硬化などで腎臓への血流が減少すると、腎臓は血圧の上昇を助けるホルモンの分泌を増やし、さらに血圧を上げてしまうという悪循環に陥り、慢性腎臓病となる。

高血圧の治療

高血圧の治療は、生活習慣の改善と薬物療法を組み合わせて行うのが一般的だ。

生活習慣の改善

(1)塩分を控える

生活習慣改善の最大のポイントは、いかに塩分摂取を抑えられるかにかかっている。例えば汁物をつくる際、だしをきかせることによって薄味でもおいしく食べられることがある。このような工夫を日常生活で積み重ねていくことが重要となる。

「食事面では塩分が多い漬物を食べすぎず、スナック菓子も控えるようにしましょう。ハムやソーセージ、練り物などの加工食品は、意外と塩分を多く含んでいるので注意が必要です。また、ラーメンやうどんなどのつゆは飲み干すのはNGです」

(2)ストレスをためず、しっかりと睡眠をとる

「高血圧の原因にはストレス、不眠も挙げられます。質の良い睡眠をしっかりとることも重要です」

(3)ダイエットをする

「肥満の方は食事や運動を工夫して行い、減量することも血圧を下げる方法の一つです」

(4)禁煙・減煙に努める

「タバコの成分のニコチンは血管収縮させ血圧を上げますから、禁煙もおすすめします」

(5)入浴時に工夫をする

「寒さも血管を収縮させますので、特に冬場はできるだけ脱衣場を温かくして、風呂場との温度差ができないように工夫しましょう」

薬物療法

生活改善だけでは血圧が下がらない場合は、血圧を下げる降圧薬を服用する薬物療法を併用する。降圧薬は毎日同じ時間に飲むことが重要。一時的に血圧が下がったからといって服用をやめると、血圧は戻ってしまう。血圧の上下が繰り返されると血管に傷を付ける原因ともなる。医師との相談により、適切な服用を心がけるようにしよう。

※写真と本文は関係ありません

監修者: 山本祐歌(ヤマモト・ユカ)

日本糖尿病学会専門医、日本抗加齢医学会専門医。En女医会所属。

En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。