• 河毛監督(左)と野村周平 (C)フジテレビ

――河毛監督はトレンディドラマから社会派のエンタテインメント作まで、90年代、そして平成のフジテレビドラマを彩ってきた監督だと思います。昔と今で、作り方などの変化はあったりしますか?

それはね、あまりにも変わりすぎて(笑)。80年代後半から90年代半ば過ぎのドラマって、テレビドラマの第二期黄金時代だったと思うんですね。やっぱり今より全然自由なことができた。今、映画が負っている役割を、実は全部テレビがやっていたんだよね。『踊る大捜査線』が映画で大ヒット(98年)して若い人たちが邦画を見るようになったっていう流れができるまでは、若い人たちってあんまり邦画を見なかった。映画デートをするにもだいたい洋画ですよね。

だから、その分のエンタテインメントはテレビがやってたって思っていて、例えば『沙粧妙子-最後の事件-』(浅野温子主演)とか『ギフト』(木村拓哉主演)とか『きらきらひかる』(深津絵里主演)とか『ナニワ金融道』(中居正広主演)とか『タブロイド』(常盤貴子主演)とか、そういうドラマっていうのは、今は企画が通らないと思うんだよね。今はああいう作品って映画でやってる。それをテレビでできた時代だったわけだから、それは面白かったですね。やっぱりテレビドラマが一番面白いんだって僕は思っているしね。今の若い作り手はいろんな制約が増えてしまっているから、大変だね君たちは、って思う(笑)

――『ギフト』のワンシーンで、当時実際に大流行していたおもちゃを突然「こんなもん!」って窓の外に投げ捨てるシーンがありましたよね。今だったら多方面に配慮しなければならないけれど、あの時代だったからできたのかな…と思ったりするのですが、現在の表現の自主規制についてはどう思われますか?

自分たちで規制をやりすぎると、自分で自分の首を絞めることになると絶対思いますね。だからもうちょっと、戦うべきところは戦わなきゃいけない、作り手として。それって、見てくれる人、お客さんに対する誠意だと思うんですよね。

でも、もっと大前提で言うと、作り手に作りたいものがなければいけない。まず自主規制とかヘチマとか言ってる前に。その“作りたい”というエネルギーが薄いような気がするんだよね。「あなた方が観たいものは何ですか?」っていう問だけがあって、「私はこれを作りたいんです」っていう熱がない。視聴者に合わせて作っていくことになると、緩いものしかできなくなるんですよ。だから、大きな熱量で「僕はこれを見てもらいたい!」っていうのがないと。それで壮絶にコケてもいいんだよ。「これをお召し上がりになりたいんでしょ?」って勝手に忖度した料理を出して「まずい!」って言われたら最悪じゃないですか(笑)。だから、「これうまいから食ってくれ!」って言って出さないと。作り手の熱ってそういうものだから、まず自主規制の前に、その問題の方が一番でかいような気がする。

そう考えると、他局も含めて熱量を感じるドラマがちゃんと評価されてるよね、『3年A組』(日本テレビ)みたいなドラマを企画した人を僕は偉いと思うし、山口雅俊プロデューサー(※元フジテレビ。『ギフト』『きらきらひかる』などを制作)の『新しい王様』(TBS/Paravi)とか、ああいうものを僕は評価しますね。まだまだテレビ制作者も捨てたもんじゃないなって思う。

  • 土屋太鳳 (C)フジテレビ

  • 野村周平 (C)フジテレビ

■今の時代の話として

――いろいろお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。では最後に、今作の『砂の器』の見どころをあらためてお願いします。

極端に言えば、原作は100年近く昔の話だけど、現代でも人はみんな生きづらさというものを抱えているんですよね。SNSの時代なので、本来であれば隠したいこと、人に知られたくないことっていうのが誰にでもあるけど、そういうことを守るのが大変な時代じゃないですか。だからこそ、逆にこういう話を今やることに意味があるのかなって思うんですよね。実は今のほうが、人間の在り方とか生きづらさみたいなことって強いような気がするんです。だから昔の話をリメイクしたっていうよりも、今の時代の話として見てもらいたいですね。

それと、この作品は主人公の刑事である今西によるインタビューで物事が進んでいく一種の“インタビュードラマ”なんだよね。それで、映画版では笠智衆さんや渥美清さんみたいな俳優さんがちょっとしたシーンで出てくるんですが、今回はそれを踏襲して、豪華な俳優さんがそんな感じで出てきます。ちょっとしたシーンでも、すごく大きな俳優さんが演じると、証言や自分の記憶を語るっていうただの説明ゼリフになってしまいそうな部分が、1人1人の人間の言葉として伝わってくるんです。開局60周年ドラマだからこその豪華な俳優たちがたくさん出てくるところも、楽しみにしていただきたいと思います。


●河毛俊作
1952年生まれ、東京都出身。慶応義塾大学卒業後、76年フジテレビジョンに入社。『君の瞳をタイホする!』『抱きしめたい!』『沙粧妙子-最後の事件-』『ギフト』『きらきらひかる』『ナニワ金融道』『タブロイド』『救命病棟24時4』といった同局のドラマのほか、WOWOWの『パンドラ』シリーズ、映画『星になった少年』などの演出を手がける。