4月になると新社会人の会社生活が始まります。初めてのことはたいてい緊張しますが、特に初出社の緊張感は大きいでしょう。
「自己紹介をきちんとできるのか」「上司や先輩とちゃんと話せるのか」など、想像して緊張感や不安が高まる人は多いのでは?
そこで、『緊張して話せるのは才能である』(宣伝会議)著者の永井千佳さんに、緊張をうまく生かす3つのコツを紹介いただきました。
1. 緊張をうまく生かす
演奏家だった永井さんは元々極度のあがり症。それでも、舞台に立ち続けて苦しんでいました。あるとき、緊張を生かし感動を伝えるコツを発見。それをもとに、経営者やマネージャーを中心に600人以上のプレゼンテーション指導を行っています。
永井さんが緊張を生かすコツを見つけたきっかけは何だったのでしょう。
――緊張を生かすコツを発見した経緯をお教えください。
永井さん「ピアニストとして活動していたころ、演奏日は朝から緊張してガタガタ震えるのが普通でした。ある時、偶然リラックスして演奏できた日がありました。
それなのに、お客さんの反応が悪く、演奏に対する感想も良くありませんでした。そして演奏を撮影した映像を見てみると、『うまくできたと思った演奏箇所』ができていないことが分かったのです」。
こうした経験を何度かするうちに、永井さんは緊張のメカニズムを医学的に知る機会があり、衝撃を受けたそうです。
永井さん「人は緊張すると交感神経が活発になります。アドレナリンというホルモンや、『覚醒のホルモン』ノルアドレナリンが体から出て、周囲に意識を張りめぐらすのです。
つまり、緊張は人のDNAに刻み込まれた、生死ギリギリのところで能力以上のものを引き出そうとする人間に生まれつき備わった力、才能なのです。それからは、緊張を味方だと認めることができて、落ち着いてコントロールできるようになったのです」。
こうして緊張の仕組みを学んだ永井さん、現在はコンサルタントとしてその知識を生かしています。ここからは、初出勤する新社会人に向けた注意点を聞いてみました。
2. 自己紹介を成功させる
――自己紹介に大切なことは何でしょうか。
永井さん「人は第一印象が9割。最初の印象が良ければ、もしその後少々失敗しても『この人はしっかりした人だから、何か理由があるんだろう』と思ってくれます。だから自己紹介の第一印象は、この先1〜2年を決める大切なチャンス。成功させたいですね」。
――いざ話すとなると緊張してしまって話せない……。緊張しない方法はありますか?
永井さん「スマホを使うことで、解消できます。成功への第一歩は自分を知ることです。まず自己紹介をリハーサルして、スマホで録画をしましょう。映像で自分を見ると、『元々気になっている点』と『実際に見える点』が違うことに気がつくと思います。
そこで、気になる点を直して再度リハーサルする。これを2〜3回行うだけで、結果はまったく違ってきます」。
普段、自分が話す様子を見ることはそうした仕事に就かない限り、機会は少ないです。とくに社会経験の少ない新社会人には、「ありのままの自分」を客観視することはあまりないでしょう。
緊張のため声が出せないと思っていたら、思ったよりは声は出せている、けれど、早口で何を言っているのか、自分でも分からなかった。
こんな失敗を初日の自己紹介でやってしまうと、「緊張して早口でしゃべっていた人」としか印象が残らず、自分が何者なのか伝わりません。ぜひ、スマホによる自己チェックを事前に行いたいですね。
3. 自分らしさを見つける
最初の職場での自己紹介はクリアしたとして、直属の上司や先輩社員と会話する際、どう話せばよいのでしょう。大人数を相手に話すのと、また別の意味で緊張しそうです。
永井さん「上司や先輩は経験豊富です。第一印象を良くしようと思って無理に振る舞っても、『無理しているなぁ』とすぐ見抜きます。むしろ自分らしく振る舞えば、上司や先輩とのコミュニケーションもグッと楽になるし、緊張も和らぐでしょう」。
――自分らしさとは、素のままとは違いますよね? 何かよい見つけ方はありますか?
永井さん「トッププレゼン・マトリックスを参考に、自分のタイプを分析しましょう。私が経営者の方をプレゼンテーション指導する際に利用しているツールで、話し手を4つに分類するものです」。
永井「『パッション型』は相手の懐に飛び込むのが上手。思い切りいきましょう。『信念型』は強い信念があります。なぜこの仕事を選んだのかを語ってみましょう。
『ロジカル型』は理論的に話すのが得意な反面とっつき難い面も。ほんの少しプライベートな話を盛り込むと効果的です。『優等生型』はまじめで存在感が薄いのが特徴です。無理するとイタいので、『いたの?』と思われるくらいに抑えると、あなたらしさが引き立ちます」。
トッププレゼン・マトリックスは、永井さんがクライアントのプレゼンテーションをコンサルする際に利用するツールです。プロによる検証が望ましいですが、自己分析でも利用できるそうです。
自分のタイプを把握して、自然な自分らしさを出したいものです。
取引先での会話
最後に、社内ではなく、社外の人。例えば「取引先への訪問」などでの緊張しないコツも紹介してもらいましょう。
永井さん「セールストークとしてのテクニックは、いったん全部忘れることをオススメします。経験豊富な先輩社員ならテクニックは使いこなせるかもしれませんが、新入社員が使うと不自然。『ああ、マニュアル通り話しているなぁ』と思われて、場合によっては印象を悪くします」。
――しかし、新社会人が社外の人と「日常会話」をするのは大変です。なにか良い方法はないでしょうか?
永井さん「無駄話はやめて『今日はこういう目的で来ました』と、本題から入ることです。そして聞き手はウルトラマンだと思いましょう。ウルトラマンは、3分経過するとカラータイマーが切れて戦うことができません。実は聞き手もウルトラマンと同じ。相手の集中力は長くても3分しか続きませんから、要点を話すよう心がけてください。
それから、気の利いたネタを用意する必要はありません。あなたが挨拶回りをする場合、必ず何かの目的があるはずです。その目的をお客さんの目線で語るのです」。
お客さんの目線で語るというのは、例えば「このお客さんに売り込みしたい」という目的で訪問する場合、ストレートに「買って下さい」と言って買ってくれる人は、まずいないでしょう。
ここでその目的を、お客さんの目線で置き換えてみるとよいそうです。
永井さん「お客さんが商品を買う時は、必ず何かの問題があり、それを解決したい時です。ですから、その問題が解決できればお客さんは買ってくれます。
そこで『御社でお悩みのことをお手伝いしたいと思って来ました。でもまだ経験不足なので、ぜひ教えてください』というようにお客さんの言葉に言い換えるのです」。
素直に「勉強不足・経験不足」と伝えると、相手は謙虚な姿勢に好感を持つだろうと永井さんは言います。ただ注意したいのは、同じ相手に何度も使うと、「本当に勉強しない人」と思われてしまいます。ほどほどがよいでしょうとのこと。
自分の印象を相手にしっかりと持ってもらうためにも、最初のイメージは重要。今回紹介したポイントを参考に、初出勤をうまく乗り切ってください。
取材協力: 永井千佳(ながい・ちか)
広報・IR・リスクの専門メディア月刊「広報会議」では、2014年から経営トップ「プレゼン力診断」を毎号連載中。さらに、NHK総合、週刊誌「AERA」、文化放送、J-WAVE、TOKYO FM、雑誌「プレジデント」、日経産業新聞など、さまざまなメディアでも活動が取り上げられている。主な著書に、『DVD付 リーダーは低い声で話せ』(KADOKAWA 中経出版)、『緊張して話せるのは才能である』(宣伝会議)がある。