2018年度は3,100万人を超えた訪日外国人数(※日本政府観光局 訪日外客数より)。政府は、2020年には4,000万人、2030年には6,000万人という目標を掲げ、受け入れのための環境整備を進めています。

その一環として行われたことの1つに、通訳案内士法の改正(2018年1月4日施行)があります。これによって、資格を有さない人でも、有償で通訳案内業務が行えるように。つまり、事実上誰でも、訪日外国人を相手に、有料観光ガイドができるようになったのです。

  • 年々増加する訪日観光客(写真:マイナビニュース)

    年々増加する訪日観光客

では実際、この通訳ガイドという仕事は、今現在どの程度のニーズがあり、例えば休日や東京2020で副業ガイドを行う場合、どのくらい稼げるのでしょうか。

訪日外国人観光客向けツアー企画やガイド育成などを行っているジェイノベーションズの代表取締役社長、大森峻太(おおもり・しゅんた)さんに話を伺いました。

若者を中心としたボランティアガイドサービス

4年前に訪日外国人観光客向けのボランティアガイドのマッチングサービスを始めたのを皮切りに、現在では、有料ツアーの企画やガイド育成、インバウンドマーケティングなどにも事業の幅を広げているジェイノベーションズ。代表の大森さんは、どんなきっかけでこの事業を始めたのでしょうか。

  • ジェイノベーションズ 代表取締役社長 大森峻太(おおもり・しゅんた)さん

大森さん「学生時代からずっと日本と海外を行き来し、大学卒業後もあちこち放浪していました。旅先では、その土地の本当の姿を見てみたいと、積極的に地元の人々と交流。その辺にいる普通の人にガイドしてもらったり、家に泊めてご飯を食べさせてもらったりしたことで、すごく面白い体験ができ、世界中に友達もたくさんできました。

そんな経験を経て帰国すると、訪日外国人観光客が急速に増加し、街中のいたるところに多くの外国人がいるという現実が。そして彼らは、滞在中の観光に、よりローカルな情報を求めていることがわかったのです。しかし、その一方で日本人は『まだ日本では英語を話す場が少ない、国際交流に興味があってもその機会がない』と話している。そこで思いついたのが、ボランティアガイドのサービスでした。英語を話したい、国際交流をしたい日本人と、ガイドをしてほしい外国人の、両者をマッチングしたら面白いんじゃないかと思ったのです。

さらにもう一つ、同時期に始めたのが、街中でのゲリラ観光案内所サービスです。"How can I help you?"と書かれた看板を持って街中に立ち、ボランティアで、困っている外国人を助けていました。この活動が注目され、メディアでも紹介されたことで、人が集まるきっかけになりました」。

それまでにも、自治体などがボランティアガイドを募集する動きはあったものの、実際に参加・登録するのは時間に余裕のある年配の人ばかり。

一方で、大森さんの活動に興味を持って集まってきたのは、学生や社会人など、若者を中心に、全国各地から数千人。そうしたことも、各方面から注目を集めた要因だったと思うと、大森さんは話します。

法改正をきっかけに、有料ガイドサービスにも注力

大森さん「改正通訳案内士法が施行されて、『誰でも有償で通訳ガイドができる』ようになりました。僕等はもともと有資格者たちが集まって始めた会社ではないので、資格にこだわることなくやってきたのですが、法改正のタイミングで、それまでに培ってきたノウハウやネットワーク、ボランティアガイドの中でも特に優秀な方々を巻き込んで、有料サービスを開始しました。

最初のお客様が、すごく楽しかったと言って満足してくださったので、これを今後のメイン事業にできないかと、実験しながら模索しているところです」。

――有料と無料のガイドサービスの違いはどこにあるのでしょうか。

大森さん「無料ガイドサービスは、ガイド登録するにあたり、特に条件等は設けていません。誰でも登録でき、ガイドになれます。ですから、登録者が、例えば寺と神社の違いを正しく明確に説明できるとは限りません。どちらかというとこちらのサービスは、現地の友だちが気軽に街を案内してくれるイメージ。申し込んでくる外国人も、学生やバックパッカーなどが中心で、地元の人たちとの交流を目的にしていることが多いです。

有料のサービスに関しては、現在は東京と関西で弊社社員が対応しており、言語は英語のみ。会社としてコースを作り、ガイドも研修を受けて、英語はペラペラです。お金をいただく分、プロフェッショナルが提供するサービスとして、質は担保されていて、ブレもありません。こちらは、ある程度お金をかけて旅行を楽しみたい外国人、歴史や文化についての知識も得たいし、美味しいお店や人気のお店の情報も欲しいという方々が申し込んでくださっています」。

有料と無料でしっかりと住み分けができ、それぞれに需要もあると大森さん。同時に今後は、全国各地にいるボランティアガイドの方々を上手く巻き込みながら、有料ガイドサービスで扱う地域や言語を拡大していけたらと話します。

副業で通訳ガイドできるか?

誰でも有償でガイドができるようになったことで、休日に副業としてやってみたいと思っている人も少なくないのではないでしょうか。そこで大森さんに、これからの通訳ガイドに必要な要素や素質について聞いてみました。

大森さん「改正前は、通訳ガイドの仕事は通訳案内士の国家資格を取得した、豊富な知識を持つ人のみに許された独占業務でした。もちろん、ガイドに知識は必要ですが、実際のところは、資格のあるなしにこだわっている外国人はまずいません。

今、外国人が求め、評価しているのは、エンターテインメント力の高い人。『お前面白いな!』というような、人を楽しませられる人が選ばれています。語学力や知識力が高いだけの人は、どんどん淘汰されていっていますね。

また、柔軟力も必要です。同じコースでも、参加者によっては対応を変えたり、突発的なトラブルにも対処したりしなければなりません。国も文化も宗教も年齢も違う人々をガイドしていると、いろんなことが起こります。そうした状況に柔軟に対応できることは、たとえ副業であっても、お金をとってガイドする以上は、必要な要素だと思います」。

――もう一つ気になるのが、報酬について。通訳ガイドに相場はあるのでしょうか。

大森さん「ガイドのニーズが高いのは、関東なら東京、関西なら京都です。そこで、ある程度のコンテンツのツアーを作ることができれば、例えば、1時間~1時間半で、1人あたり2,000円くらい。経費のかからない人件費だけのツアーであれば、このくらいが妥当だと思います。個人がOTA(Online Travel Agent)サービスなどでうまくやれば、副業としてはそれなりに稼げるでしょう。ただしそれも、企画力とガイド力次第ですね。特に企画が面白くないと申し込まれません」。

  • 企画力が大事と話す大森さん

通訳ガイドの魅力

――大森さんが考える、通訳ガイドの魅力とは?

大森さん「毎日、世界中の様々な国の人々と交流できることは、単純に楽しいです。また、外国人と話していると、自分にとって当たり前のことが、当たり前でないことに多く気付かされ、考える機会や知る機会になります。

例えば、日本では、冬の時期には自動販売機でホットドリンクが買えますよね。赤がホットで青がコールド。これは、外国人にとっては常識ではないのです。外国人と交流していると、そういった新鮮な驚きに多々めぐり合います。通訳ガイドの仕事を通じて、日本のことも、世界のことも知ることができる。自分の中の視野や世界観がどんどん広がっていく。それが魅力ですね」。

取材協力

大森峻太(おおもり・しゅんた)

ジェイノベーションズ
代表取締役社長
1989年、神奈川県生まれ。國學院大学在学中、カナダ留学、韓国留学、オーストラリア留学を経験。大学卒業後はカナダに拠点を移し、1年半かけて海外を周る。帰国後、外国人旅行者向けボランティアガイド団体を立ち上げ、約5,000人のボランティアガイドを全国で集める。2016年12月にインバウンド事業をメインに手掛ける株式会社ジェイノベーションズを設立。日本人の海外挑戦をサポートするため、StudyIn公式留学アンバサダーも務める。