米IC Insightsは、台湾TSMCの2018年のウェハ1枚当たりの平均売上高が1,382ドル(200mmウェハ換算)との予測を公表した。

これは、同業(専業ファウンドリ)の米GLOBALFOUNDRIES(GF)の1,014ドルより36%高く、台湾UMCや中SMICのウェハ当たりの平均売上高(それぞれ715ドル、671ドル)の約2倍に相当しているという。

さらに、TSMCは、これらビッグ4の中で、2018年のウェハ当たりの売上高が5年前の2013年と比べて増加した唯一の企業である。TSMCはこの5年で9%増加したのに対してGF、UMC、SMICはそれぞれ1%、10%、16%の減少となっている。プロセスの微細化に向けた開発が遅れている企業ほどウェハ当たりの売上高が減少している傾向が浮き彫りとなった。

  • ファウンドリ4社のウェハ当たりの売上高比較

    表1 専業ファウンドリ・トップ4社のウェハ1枚当たりの売上高比較(200mmウェハ換算) (出所:IC Insights)

図1は、2018年第2四半期におけるロジックデバイスを搭載したウェハ1枚当たりのファウンドリ売上高の平均値(技術ノード別)である。0.5μmの200mmウェハ1枚当たりの売上高(370ドル)と20nm以下の300mmウェハ売上高(6,050ドル)の間には16倍以上の差がある。

ウェハのサイズ差があるので、1平方インチ(6.45cm2)当たりで比較してみると、0.5μmでは7.41ドル、20nm以下では53.86ドルと、7倍以上の差があることが分かる。TSMCは、ほかの3社とは異なり、28nm以下の製品の受託生産が売上高の過半を占めており、最先端品に関しては独占状態にある。結局のところ、専業ファウンドリの売上高ランキングは、微細化の比率の多い順ということになる。TSMCは、2019年第2四半期に5nmロジックデバイスがテープアウトし、リスク生産を開始すると発表しており、さらなるプロセスの微細化で今後も引き続きトップを走るのが確実となったといえる。

  • プロセス別の売上高比較

    図1 専業ファウンドリにおいて製造されたロジックデバイスの技術ノード(加工寸法の指標)ごとのウェハ1枚当たり売上高。0.13μmまでは200mmウェハ、90nm以下は300mmウェハの売上高(2018年第2四半期実績) (出所:IC insights)

そのため、ファウンドリ業界におけるTSMCの市場シェアは、2019年には6割を超え、2位以下との差をさらに広げると業界関係者は見ている。

今後5年間に 最先端プロセスをある程度のまとまった数量で製造できるファウンドリは、TSMCのほか、IDM兼業のSamsung Electronics、そしてIntelの3社しかないとIC Insightsは見ている。しかし、Intelは、プロセスの微細化が遅れがちで自社のMPUの供給さえ潤沢に行える状況にはないため、今後、トップのTSMCとファウンドリビジネスを強化したいSamsungの最先端分野の顧客獲得が激化することが予測される。

Huaweiの先端AIチップ製造委託先もTSMC

先般、中国スマートフォンおよび通信機器大手のHuawei(華為技術)について、「人工知能(AI)向けの高性能な半導体チップの量産を始めると発表した。米中貿易戦争の長期化で供給に対する懸念が強まっており、中国企業が自前で半導体を製造する動きは今後も広がりそうだ」と国内の一部メディアが報じた。これだけ読めば中国で先端プロセスを採用したロジックICを大量に製造するとも取れる内容だが、実際はそうではない。

現在、中国のファブレス企業は、最先端プロセスである7/10nmのロジックICを設計できるまでに成長してきているが、一方で中国内には、まだ最先端となる7/10nmプロセスを用いてロジックICを製造(ウェハ処理)できるインフラが整備されていない。

7nmの受託製造に関しては、GFが無期延期(事実上の中止、10nmは最初からスキップ)し、SamsungやIntelが出遅れているため、台湾TSMCに委託せざるを得ない状況にある。AppleのiPhone XSやXS Max用のA12 Bionicプロセッサ(7nmプロセス)もTSMCが独占的に製造受託している。

Huaweiは、2018年9月初旬に開催されたコンシューマエレクトロニクス展示会「IFA 2018」において、NPU(ニューラルプロセッシングユニット)を2つ搭載しAI機能を強化したスマートフォン用SoC「Kirin 980」を発表し、世界初の7nmプロセスを採用したアプリケーションプロセッサの発表として大きく取り上げられた(当時は未だAppleからiPhone新モデル用のA12 Bionicプロセッサは発表前されていなかった)。

Kirin 980の設計は、Huaweiの子会社のHiSiliconが行い、製造はTSMCに委託している。今や、TSMCの最先端プロセスの受託製造ビジネスにとってHiSiliconは、Appleに次いで2番目の大口顧客になってきている。HiSiliconの前身はHuawei ASIC設計センターだが、HiSiliconは世界半導体ファブレス売上高ランキングで、今や、6位のAMDに次いで7位にランクされており、さらに上位を目指している。

関係者筋によるとHuaweiは、「米中摩擦の影響を避けるため、今後は半導体の内製化を図っていきたい。そのためには、半導体企業や製造装置メーカーのM&Aや装置国産化を図る必要がある」との意向を示しているという。しかし、中国勢による半導体企業や製造装置メーカーの買収には、米国のみならず、欧州、日本。韓国、台湾など各国政府も警戒しており、ますます難しくなっている。

現在の情勢を見る限り、中国勢は、今後も当分の間、最先端ロジック半導体の製造は、国外のファウンドリに製造を委託する必要がありそうだ。Huaweiがスマートフォンで激闘を繰り広げているSamsungのファウンドリ事業部に製造委託を行なうことは考えにくい。そうなると当面はTSMCへの委託を継続していくものとみられる。中国勢のTSMCへの製造委託が急増している中、2位のGFが事実上のプロセス微細化競争から脱落したことも重なって、TSMCの独り勝ちの状況はますます強まろうとしている。