「ストレス社会」とも呼ばれる現代において、うつ病になってしまう人は決して珍しくない。うつ病は時に命をも脅かし、深刻な事態に陥ってしまうこともある。そんな暗い「うつのトンネル」から抜けることができた人々をレポートしたドキュメンタリーコミック「うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち」が、Huluのドラマとして9月29日より配信されている。

同コミックは、作者である田中圭一さんをはじめ、さまざまな人々の「うつヌケエピソード」を克明にレポートし、うつに苦しむ人々の気持ちに寄り添った人気作。ドラマ化にあたり、ナビゲーターとなる主人公の「田中圭一」をココリコの田中直樹さん、うつの気持ちなどさっぱりわからないというアシスタントの「カネコ」を大後寿々花さんが演じている。

漫画家と芸人という異なる立場の「2人の田中」は、社会問題ともなっている「うつ」という難しいテーマに対してどのように向き合ったのだろうか。話を聞いた。

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    「うつヌケ」の原作者である田中圭一さん(左)と田中直樹さん

――「うつヌケ」がドラマになると聞いたときは、どんなお気持ちでしたか?

圭一さん「もちろん、嬉しかったです。漫画家として、ドラマなどの映像化になることは一つのゴール。たくさん漫画を描いてきましたが、ドラマ化されたことがなかったので……。実際にドラマを観て、エンドクレジットに自分の名前が載っているのを見たときに、長くやってきて良かったと思いました。音があり動きがあり、監督さんの演出や俳優さんの演技があることで、情報量が増えますよね。より一層深いところを伝えられる気がしますし、ドラマ化がニュースになることで『うつというものがあるんだ』と広く知ってもらえる。そこは、漫画を描いてよかったと思います」

――直樹さんは役のオファーが来たときにどんな印象でしたか?

直樹さん「僕自身はうつ病になったことはなくて、身の回りにもいなかったんですね。僕が気づかなかっただけかもしれませんが……。(田中圭一)先生は10年うつ病と闘ってこられた方なので、その方を演じるということに『ちゃんとできるのか』という不安もありました。でも、原作の本を読ませていただいて、うつ病というものが決して遠いものではないような感じがしました。自分の中にも『うつの種』がある――。そう思えたことで、最初に感じた不安は少し拭えた気がします。誰だって、落ち込むことはあると思うんですよ。それって誰もが『うつの入り口』に立ったことがあるということなんですよね」

――役を演じるにあたり、意識されたことはありますか?

直樹さん「『重くならないように』というのは意識しました。作品全体としてもそうですし、原作でもそうだったと思うんですが、やはりうつから抜けていく話ですので。うつの症状や登場するケースは非常に重たいんですけど、そこに引っ張られすぎないようにしましたね」

圭一さん「自分が原作の漫画をドラマ化してもらうことがあったとしても、作者である主人公、いわば自分自身を役者の方に演じてもらうケースって、そうそうないじゃないですか。もちろん、私であるというよりも漫画の中の『田中圭一くん』ではあるんですが、ドラマを観ていてもすごく田中直樹さんが重なるような、漫画から抜け出た感じがして『さすがだな』と思いました。野原にコタツがあるような感じとか、演出の面でも漫画の世界観を丁寧に考えてくださっているのが伝わってきましたね」

――漫画の世界観を表現するにあたり、すごく挑戦的な作りではあると思いました。ドラマをご覧になって、ご自身の経験を思い返すようなことはありましたか?

圭一さん「僕のケースとは違うものもあったんですけど、うつから抜けたシーンに夕陽がさしてくるなど、演出的にもほっとする作りになっていて、ここは漫画でも気をつけていたところだったんです。うつの内容が重いものであればあるほど、『あぁ、抜けてよかった』と感じてもらえるポイントだと思うので、そこを感じられるように作ってもらえていたのは嬉しかったですね。『必ず出口がある』というのが本書のテーマでもあったので、ドラマの中でもしっかり感じていただけたら」

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    原作にも登場する「うつ」を表現するキャラクターと一緒に

――うつの症状が重いときって、実際にドラマの中で描かれたような感じなんでしょうか? ちょっと景色が暗くなるというか、色が無くなるような……

圭一さん「そうですね……。色が無くなるというよりは、色を認識しなくなるような感じです。白黒に見えているわけではないんですよ。健康な状態だと鮮やかな夕陽や夕焼け雲を見て、『オレンジや紫が混ざってキレイだな』と感じられるんですが、うつの状態だとそれを感じる心が鈍くなる。『風が気持ちいい』『陽射しが気持ちいい』ということを感じられないんです。そういうのを感じられるようになると、『心が健康になってきたな』と思いますね」

――日常の些細な感動を見つけられなくなったら、「『うつのトンネルの入り口』にいる」というサインかもしれないですね

圭一さん「サインという意味では、うつのときは活字がまったく頭に入ってこなくなりました。一番困りましたね。普通の方でもストレスがたまると活字が頭に入ってこなくなるそうなので、そこは要注意のサインかもしれません。でも漫画を描いていて、うつの入口と出口は人それぞれであり、『これ』という定義ができない難しい病気なのかなと思いました。僕の場合は、気温差が激しいときに症状がつらくなると気づけたのが大きかった」

――ご自身で「なりやすくなるポイント」を見つけられたというのも大きいかもしれないですね

圭一さん「天気予報で『気温差が激しくなる』というのを見たときに、『今週は気持ちが沈むな』『もし気持ちが沈んだとしても、それは気温差のせいだな』と予防線が張れる。うつは『理由がないのに不安になる』ことが怖いので、たったそれだけのことですが、理由があることが大きな安心につながるんです」