一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会(代表理事・平田麻莉)が監修した、フリーランスのためのノウハウ本『フリーランス&"複"業で働く完全ガイド』(日本経済新聞社)がこのほど発売され、出版を記念したイベントが開催された。

  • フリーランス協会代表理事の平田麻莉さん

フリーランスや副業を持つという柔軟な働き方をする人が増えた昨今、成功し続けるための学びや秘訣とは。今回は、著作家・コンサルタントの山口周さんによるミニセミナーをレポートする。

  • ミニセミナーの講師を務めた山口周さん

昭和型のモデルから脱却せよ!

広告代理店やコンサルティング会社での勤務経験のほか、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『独学の技法』などの著書もある山口さん。現在もフルタイムのサラリーマンとして会社に所属しながらも、「本を書いたり、その関係でこういう場所に呼ばれて話をしたり、大学で教えたりしています。自分で意図したわけではないけど、結果的にパラレルキャリアと言うか、4つくらいの仕事を掛け持ちするような状態になっています」と話す。

平成もあと1年足らずとなった今、山口さんが感じているのは「平成のキャリアモデルは、昭和の第四楽章のようだった」ということだという。「昭和から平成になったときに、昭和の時代から言われていたことを終わらせられなくて、平成らしい新しい価値観や人生のモデル、幸せのイメージを全然提案できずに終わってしまった」。平成は「1つの会社で勤め上げれば幸せになれる」「いい大学に入っていい会社に入ったら一生安泰」という昭和型のモデルでずっときてしまったので、そろそろそれを終わりにする時代ではないかという。

  • 会場には50人を超える参加者が集まり、登壇者の話に真剣に耳を傾けた

1つの仕事だけ続けることはリスクが高い

その根拠の1つとして、「人生100年時代の到来」を挙げる。人生が長くなる分、働く時間も必然的に長くなり、人生の実りをどこで生み出していくかを考える必要がある。「この間、予防医学研究者の石川善樹さんと話したときにいくつまで生きるつもりかと聞かれました。80歳くらいと答えると、『甘い』と怒られて、100歳まで生きる前提で人生のプログラムを考えたほうがいいと言われました」と山口さん。その中で「0~25歳は春、25~50歳は夏、50~25歳は秋、75~100歳は冬と、人生を1/4ずつに分けて考える」話を聞いたという。人生のどのタイミングで一番豊かな実りを出していくかを意識したほうがいいとし、「多くの人にとっては、秋が実りの時期だと石川さんはおっしゃっていた」と話す。

では、人生における"秋"を実り多いものにするために、"夏"をどのように過ごすべきか。山口さんは「いろいろな仕事をして、つながりや経験、スキルを身につけるべき」とし、「何より大事なのは、失敗を経験すること」だという。「失敗してみると、『失敗しても大したことない』ということが分かってどんどんチャレンジできるようになる。失敗を恐れずに試せば試すほど、スキルや人脈が自分の中に貯まる。夏の時期はそうやって人とつながっていくことがとても大事だと思う」。

そして、「人生は長くなっているが、1つの仕事や産業はすごく短命になっているので、25年間1つの仕事だけに集中することはリスクが高い」ともいい、少し前にアメリカで最もセクシーな仕事とされた「データサイエンティスト」が今はほとんどAIに取って代わられ、ものの数年で最もお金が取れない職業になってしまったことを例に挙げた。「"夏"の時期に、いくつかの領域にまたがっていろんな人と仕事をするのがいい」と語る。

スキルや人脈を培い、リスクヘッジを

山口さんは、「東京大学の安冨歩教授は『自立とは依存できるということだ』と言っていますが、本当にそのとおりだと思います」と語る。会社の寿命も仕事の寿命もどんどん短くなる一方で、人生は逆に長くなるとすれば、多くの人は職種や働く場所、相手を変えていかなければならない。「そういう変化を1人で乗り切ろうとすると大変だけど、変化を介添えしてくれるのは周りにいる人であり、過去に一緒に仕事をして信用を培った人」だという。

会社員の場合、特に日本企業は外資系よりずっと残酷な環境にある。「外資系だと、向いてなければ遅くても2、3年で『辞めたほうがいい』と言われる」そうだ。いきなり仕事を取り上げられてプライドもズタズタになるから辛いことではあるが、自分は何が得意か、なにがやりたいかを真剣に考える機会になる。一方日本企業は、長く勤めたあとで生き残れないことになったとしても、転身できるタイミングを逃しているうえ、「スキルや人脈の貯金をしていても、会社を辞めたらリセットになるのが日本の企業の姿」だという。この点で、自分の意識次第でいろんな経験を積んだり人脈を築いたりできるのがフリーランスの強みだと言えそうだ。

また、これからの時代のリスク対応策として、「同じスキルを使うが違う業界の仕事」か「同じ業界だけど違うスキルを必要とする仕事」をしてみる方法を提案。「"夏"の時期にスキルも業界も同じところに居続けるのが一番危ない。だけど、スキルも業界も違うところでいきなり活躍するのは大変なので、まずは1つずらしてみる。そうすると次にまた1つずらすことができ、自分のスキルや経験が非常に多様性を持つようになる」と語る。

一番大切なのは、自分自身が楽しむこと

終盤で山口さんは、「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」という論語の一節を例に、「活躍してる人みんな、楽しんで仕事をしている」という共通点があることを指摘。将棋の羽生善治氏も「20~30年この業界のトップでいられるどうかは、才能よりももっと重要なことがある。それは、楽しんで将棋の勉強をずっと続けられるかどうか。それができる人は、最後は絶対勝つ」と話していたエピソードを紹介。自分自身が楽しんで続けられる仕事を見つけることが、キャリアプランを充実させるためには欠かせない重要なポイントのようだ。