デザイン画から機体に描く難しさ
「HELLO 2020 JET」は、公募作品786点の中から大賞に選ばれた松本朝陽さんのデザイン画がベースになっている。佐々木さんと中村さんは、その塗装現場でも指揮をとっていた。
「デザイン画を実際に機体に描くというのが我々の業務だったわけですが、例えば、デザイン画には翼や窓など細かい部分は加味されていませんでした。それをどうやって機体に再現していくかがみんなで知恵を出したところです」(中村さん)。
工程としては、デザイナーがデザイナー画からデジタル化したデザインを作り、そのデザインを元に飛行機に塗るための型紙(マスキング用紙)を作る。ただし、デザイナーから上がってくるデザインには、文字の大きさなど細かな指示はないため、全体の機体の大きさから比率を求めて、それぞれのパーツの大きさを決める作業が必要になる。型紙を作る順番も、どの順番から塗っていくか実際の作業の流れを考えながらとなる。
シートには塗る部分に切り込みを入れ、その切り込みの中に塗装を行う。塗装をする際は1m幅のシートを何枚も貼りあわせ、塗りたい順番にシートをめくりながら塗り進めていく。「HELLO 2020 JET」には様々なスポーツや観光名所が施されており、塗装作業の難しさは想像に難くない。作業における一番の肝を中村さんにうかがったところ、「ベースの色ですね。ベースとなる色をきれいに仕上げることで、その上に載るデザインも生きてきます」ということだった。
「元の背景の色ができていないと次に進めないので、背景の色をきれいに仕上げるということが大切でした。その後、特別塗装の場合、切り抜いたシートを機体に貼り付けて位置を決めるのですが、これが結構時間がかかります。デザイナーにも立ち会ってもらい、『ここには窓があるからずらした方がいいよね』と相談することもありました。また、元々機体に描かないといけないマークもあるのでそれと干渉する時はどうするか、翼に隠れるところはどうやってデザインしたらいいのか、などという問題もありました」(中村さん)。
それぞれのデザインの塗装は一つひとつ手作業で行ったため、特にデザインの細かいところは慎重に作業を進めていったという。例えば、MRO Japanの格納庫は緩い傾斜がついているため、スカイツリーや東京タワーという垂直なデザインは、平地で見た時にちゃんと真っすぐになるかにも気を配らないといけない。
A380特別塗装機は、きっと喜びも大きい
「HELLO 2020 JET」も含め、佐々木さんと中村さんに思い出深い一機について話をうかがったところ、佐々木さんは「ポケモンジェット」とのこと。
「ジャンボ(B747)はキャンパスの大きさが違うので、『何でジャンボでやるの』とちょっと思うこともありました(笑)。『お花ジャンボ』はおなかの部分が薄いグリーン、横はグリーンとブルーとグラデーションになっていたので、ベースカラーをつくるのが大変でした。あとは、前のところに花びらがついているので、平面のシートを張り合わせて塗装することはなかなか難しいんです」。
一方、中村さんは「パンダジェット」を指名。入社して間もない時に担当した機材だったということもあるようだ。そうした機材が格納庫から出て行く時、「自分がやったところは大丈夫だったのかな」と思いつつ、誇らしい気持ちで見送っていると話す。また、「自分が担当した飛行機を見てお客さまが喜んでいる姿を目にすると、やっぱりうれしいです。やって良かったって思いますね」と話す。
飛行機塗装の最中は機体の全面にマスキングテープが貼られているため、その全貌は完成した時にしか見えてこない。そのため、「作業を終えてマスキングテープを全部をはがす時は喜びもひとしお」と佐々木さんは言う。
ANA期待の特別塗装機と言えば、2019年春より東京=ホノルル線に導入される世界最大の旅客機エアバスA380を用いた「FLYING HONU」だろう。大きなA380にも映える"ハワイの青い海でゆったりとくつろぐホヌ(ウミガメ)の親子"は、世界から寄せられた2,197点の中から大賞に選ばれたデザインだ。ただし、A380は大型機ゆえに塗装に対応できる場所も限られるため、MRO Japanでは対応しないという。
世界一大きなウミガメ親子がどんな感じに仕上がるのか、現場の人々は巨大なキャンパスに苦労させられるのかもしれないが、きっとその分、達成感や喜びも大きいことだろう。遭遇できた時にはぜひ、そんな現場の人たちの想いもかみしめながら堪能してもらえればと思う。