コンビニのレジが混んでいると、おでんを買いたくても我慢してしまう。雨の日の人混みでは、自分の傘をしぼめがち。レストランで向かいに座る友達に足を踏まれていても言い出せない――そんなあなたは、プチ「耐え子」かも?
Twitterで話題になっている漫画「耐え子の日常」。どんな目に遭っても、笑顔で耐えて耐えて耐えまくるOLの毎日を、コミカルに描いた作品です。そのシュールな笑いがTwitterユーザーの心をつかみ、連載開始から約2年間でフォロワーは10万人超に。そして、2018年5月、ついに単行本となり、発売後2週間で早くも重版決定と好評を博しています。
今回は、「耐え子の日常」の作者であるそろそろ谷川さんと、耐え子のファンであり、今回の書籍で帯にコメントを寄せているイラストエッセイストの犬山紙子さんが対談。書籍の見どころや制作秘話が飛び出しました。
2年でフォロワーが10万に爆増
犬山紙子さん(以下、犬山):そろそろ谷川さん、男性だったんですね……! 普段顔出しされていないから、どっちだろうと思っていました。
そろそろ谷川さん(以下、谷川):隠してたわけじゃないんですけどね。今回初の顔出しです。がっかりされたらどうしよう(笑)。
犬山:女性だって思っているフォロワーさんは多いかもしれないですね。私は「耐え子の日常」を若いマネージャーくんから教えてもらったんです。最近ハマっているシュールな漫画があるって。見てみたら、私の方がハマっちゃいました。耐え子はいつから書いているんですか?
谷川:2年半くらい前からTwitterで発信するようになって。最初はフォロワーも200人くらいだったんです。
犬山:2年でフォロワー10万になったんですか? すごいですね。
谷川:細々と続けているうちに、Twitter漫画業界で名をはせる、20万人以上もフォロワーを持つアーノルズはせがわさんがリツイートしてくれて。それで一気にフォロワーが1万も伸びました(笑)。
犬山:200から1万!
谷川:以降もアーノルズさんがリツイートしてくれるたびに1万ずつ増えてって感じで、今に至ります。
犬山:最近ネットでバズってる漫画って説教臭いのが多い印象だったので、耐え子は純粋に面白い。毎回シュールで、落ちが読めないんですよね。私は「中ボス」や「バルーンアート」のネタがすごく好きなんですけど。
耐え子は僕のミューズ
犬山:ところで、なんで「会社で耐えるOL」を描こうと思ったんですか?
谷川:女性が集まると、だいたい1人は「ごめんね」が口癖の耐え子っぽい人がいるんですよね。「言いたいのに言えない」を描いたら面白いんじゃないかなって。会社って「言いたいのに言えない」の宝庫じゃないですか。
犬山:確かに。私も昔少しだけ会社員をしてたんですけど、いつも後ろの席の人のイスに衝突したり、ゴミ箱の取り合いになったり……。
谷川:オフィスの狭い通路の譲り合いとか、「カチャカチャ、ターン! 」ってわざと音を立てるエンターキーハラスメントとかね。
犬山:ネタはどうやって考えているんですか? そういう会社のワンシーンから?
谷川:それもあるけど、実は、耐え子は僕の「ミューズ」なんです。
犬山:え、まさかの好きなタイプ!?
谷川:そうなんですよ。僕はSなところがあって、いつも頭の中で「次はどうやって耐え子に意地悪しようかな」って考えてるんですよね。言葉にすると危ない人みたいですけど。
犬山:それ聞くと見方が変わりますね。ああ、根底に愛があるから、耐え子読んでて「こんなひどい目にあわせて最悪!」ってならないのか。オウムが教えてない下ネタを話しちゃったり(笑)
谷川:心の中に耐え子を飼っていて、このシチュエーション、耐え子だったらどうするんだろうって想像するんです。自転車泥棒のネタもそうやってできたんですけど。
耐える人の先にあるもの
谷川:ところで、紙子さんは「耐える女」なんですか?
犬山:基本「耐えない」ですね。その代わり、夫がすごく耐えるタイプなんですよ。耐える人って、いつか爆発しそうでドキドキするんですよね。だから私も熟年離婚にならないように、気を付けなきゃ。
谷川:耐えるって、思いやりの一部ですからね。
犬山:"赦す"ってことですもんね。耐えなきゃいけない環境は良くないけど、自発的に人を赦せる人はすごいなあと思います。似たカテゴリーに「自虐」がありますよね。私も昔から自虐ネタをまき散らしてきたけど、それも気を付けなきゃいけないなと思っていて。
谷川:どうしてですか?
犬山:自虐って、自分を落とすことで、自分だけじゃなくて自分と同類の人たちのことも落としちゃうんですよ。それに、あまりにも自虐をやりすぎて、自分のことをとにかく笑いに変えようとする空気を作っちゃうと、「誰が一番ひどいかゲーム」になって、負の連鎖を作っちゃうんです。
谷川:なるほど。笑いを取ろうとして、負の連鎖を作っちゃったら悲しいですもんね。
犬山:それに、耐える人の先にはその相手として「理不尽な人」が存在するんです。自分が耐える人じゃないって自覚がある人は、反対に「自分は理不尽になっていないかな?」って振り返ってみてほしいですね。
谷川:軽快なギャグ漫画が、紙子さんの哲学によって深みを増している……(笑)
犬山:あはは。話を書籍に戻すと、書き下ろしの長編ものも収録されているんですよね?
谷川:そうなんです、いくつか。フォロワーさんたちにアンケートを取った結果、JK時代の耐え子を描くことになって。
犬山:耐え子は昔から耐え子だったのか? 確かに気になる!
犬山:全部が声に出して笑っちゃうくらい面白くて、病みつきになります。本当に、たくさんの人に読んでほしいです!
谷川:紙子さん、お忙しいなか宣伝までありがとうございました! 読んでくださった方は、感想をTwitterのハッシュタグ「#耐え子書籍化」で呟いてもらえたらますます頑張れるので、よろしくお願いします!
『耐え子の日常』
謙虚で内気なOL「耐え子」が、ひたすら耐えぬく日常を描いたギャグ&コメディ漫画。「笑える! 」「共感できる! 」と瞬く間に話題になり、Twitterフォロワー数は10万人を超えている。書籍では、Twitterで発表した350本以上の1~4コマ漫画の中から厳選したエピソードを収録。さらに「Twitterでは読むことができない長編漫画」や「書き下ろし」なども楽しめる。
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