――録音技師にとって鉄の掟ですね。それでも、録り直しができないことはないんですか?
そういう場合はテストの音に変えたりして対応しますが、たとえば海辺のロケで波の音がうるさい時に、雰囲気だけで伝えようとするのではなくて、やっぱり、セリフはきちんと観客の耳に届けないといけません。そこを忘れないように心掛けています。
――録音技師の醍醐味は何ですか?
うるさい環境できちんとセリフが録れた時に達成感があります。ただ、僕の努力だけではなくて、助手さんのピンマイクやガンマイクのおかげでもあるので、それらがシンクロした時の気持ち良さは格別です。
――北野組は他の現場と比べてどのような違いがあるのでしょうか?
やっぱり「緊張感」じゃないですかね。監督はご自身の中で計算をした上で1つ方向性が定まっている方なので、そこへどうやって向かっていくのかが重要になります。必要ないものに関しては、「いらない」とハッキリ言われるので。撮影部もそうだと思うんですけど、自分が納得していなくても監督が納得することもあって、そこにたどり着くまでの緊張感が北野組にはあります。
――北野監督は決断に迷いがない方なんですか?
音楽の出しどころなどいろいろと迷っていらっしゃる姿もお見掛けしました。僕らが作業して仕上げた時、きっと何かで迷われてるんだなと。問題ない時は何事もなく進みますが、無言の時間が本当に緊張します(笑)。
――北野監督を取材した時、基本的にはスタッフにゆだねているともおっしゃっていました。
それが音の打ち合わせで多くを語られないところだと思います。とりあえず、やりたいようにやってみてと。細かい指示は打ち合わせでは一切ありません。
――北野組には長年携わっているスタッフも多いので、役者にとっても独特の緊張感がある現場だそうです。
役者さんも1カット1カット真剣で、すごく緊張感を持って臨んでいらっしゃるのがすごく伝わる現場です。きっと、僕らと同じような緊張感があるんじゃないでしょうか。スタッフと役者の北野組ならではの緊張感があるからこそ、良いカットがたくさん撮れているんだと思います。
100点は一生ない
――次の作品も楽しみですね。
そうですね。デジタル技術の進化と共に、撮影現場の緊張感は薄れていると思うんですよ。僕らの世界でも、一度消してしまった音でも復旧することができる。失敗しても、戻ることができるんです。そういう緊張感が薄れている時代の流れの中で、変わらない緊張感をもたらしてくださるのが北野監督だと思います。
――試写を見て、その緊張感から解放されるんですか?
試写を見てホッとすることは今まで一度もないです。これは、どの作品をやっても同じ。完成して一週間後ぐらいに試写があるんですが、「もっとこうしておけばよかったな」とか、たくさんの課題が見つかります。音の世界に正解はないので。きっと、100点満点は一生ないと思います。
■プロフィール
久連石由文(くれいし・よしふみ)
主な担当作品は、『色即ぜねれいしょん』(09)、『月光ノ仮面』(12)、『アウトレイジ ビヨンド』『アウトレイジ 最終章』(12・18)、『ルパン三世』(14)、『龍三と七人の子分たち』(15)、『ピースオブケイク』(15)など。
(C)2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会