ホビージャパンより2017年12月9日に発売された映画研究書籍「ゴジラvsデストロイア コンプリーション」の出版を記念し、2018年1月13日に東京・新宿ロフトプラスワンにて、トークイベント「平成ゴジラ バーニングトーク」が催された。会場に熱心なゴジラファンが詰めかける中、東宝映画『ゴジラVSデストロイア』(1995年公開)に縁の深いトークゲストが登壇し、バーニングの名にふさわしく"熱い"ゴジラトークを繰り広げた。

  • 左から、ゴジラ役の薩摩剣八郎、大河原孝夫監督、ゴジラジュニア役の破李拳竜

2017年にアニメーション映画『GODZILLA 怪獣惑星』が公開され話題となった「ゴジラ」だが、東宝が製作した実写映画作品(国内)としては、1954年の第1作『ゴジラ』(監督:本多猪四郎)から2016年の『シン・ゴジラ』(総監督:庵野秀明)まで、これまでに29作ものゴジラシリーズが生み出されてきた。

1984年に"復活"を果たしたシリーズ第16作『ゴジラ』(監督:橋本幸治)に続き、1989年に作られた『ゴジラVSビオランテ』(脚本・監督:大森一樹)から1995年の『ゴジラVSデストロイア』(監督:大河原孝夫)までの6作品は、同一の世界観のもとに作られた連作シリーズであり、昭和から平成へと元号が変わったことを受け「平成ゴジラVSシリーズ」と呼ばれてファンから今なお熱烈な支持を受けている。

『ゴジラVSビオランテ』からゴジラ映画の特技監督を務めた故・川北紘一氏は、それまで一作ごとに顔やスタイルが微妙に変化していたゴジラ像の刷新を図り、凶暴さとシャープさを兼ね備えた顔つきと、ボリューム感に満ちた重厚なシルエットを備えた新しいゴジラを作り上げた。対戦怪獣ビオランテにちなんで"ビオゴジ"という愛称を与えられたこのゴジラは、『ゴジラVSキングギドラ』以来1年に1作のペースで作られるようになった平成ゴジラシリーズの中でいくつかの改良・補修を続けられたものの、全体のイメージを変えないよう配慮されていた。現在、新宿・歌舞伎町の「ホテルグレイスリー新宿」(TOHOシネマズ脇)にそびえている巨大なゴジラヘッドは、まさにこの「平成(VS)ゴジラ」がモチーフなのである(監修:川北紘一)。

『ゴジラVSビオランテ』から数えて6作目にあたる『ゴジラVSデストロイア』では、平成ゴジラVSシリーズの完結編を作るという意気込みで、「ゴジラ死す」をテーマに置くこととなった。体内の原子炉が暴走し、体の内部が燃え上がるように赤く発光させながら暴れ回る本作のゴジラは"バーニングゴジラ"と呼ばれ、作品を象徴する強烈なビジュアルが生み出された。

「平成ゴジラ バーニングトーク」は2部構成となっており、まず第1部では、ゴジラ役・薩摩剣八郎とゴジラジュニア役・破李拳竜がそろって「スーツアクター」トークを繰り広げることになった。

かつて『ゴジラ対ヘドラ』(1971年/監督:坂野義光)でヘドラを演じたほか、1984年『ゴジラ』から『ゴジラVSデストロイア』まで歴代ゴジラを演じ続けてきた薩摩は、俳優と同時に剣術、空手道をこなす武道家の一面を持つ。100キロ以上もある重いゴジラスーツを着て、怪獣らしい演技を行うため独自に「ゴジラ拳法」の型を編み出し精神統一を図ったという、まさに豪傑という言葉の似合う人物である。

対する破李拳は、『撃殺!宇宙拳』をはじめとする多くの代表作を持つ一方で、特撮ヒーローのアトラクションショーでも数多くのキャラクターを演じてきた"闘う漫画家"。『ゴジラVSキングギドラ』(1991年/脚本・監督:大森一樹)でゴジラ宿命のライバル・キングギドラのスーツアクターに抜擢されて以来、『ゴジラVSモスラ』(1992年/監督:大河原孝夫)でバトラ(幼虫)、『ゴジラVSメカゴジラ』(1993年/監督:大河原孝夫)でベビーゴジラを演じてきた。『ゴジラVSデストロイア』では、ベビーが成長したという設定のゴジラジュニアを演じ、強敵デストロイアを相手に立ち向かっていった。

本作で暴れ回るバーニングゴジラは、スーツそのものの重量に加え、首を上下左右に動かすメカニックや、各部に1000個もの電飾が組み込まれており、なんと130キロもの重さになったという。しかも、体じゅうから蒸気を噴出するという設定のため、炭酸ガスの噴射ギミックまでもが仕掛けられていた。薩摩は撮影当時を振り返って「スーツに入ったままではいくらでも入れるんだけど、命穴(中から外を見るための、わずかな大きさの穴)のところにガスの噴射口が来ていて、そのせいで何度も酸欠になって倒れたんだよ。4回ほど気を失って、このままじゃゴジラより先に中身の俺が死んじゃうってことで、空気ボンベを常時入れてもらうようにしたんだよね」と、過酷極まりないゴジラ演技の苦労話を語った。ちなみに、本イベントで薩摩が着ていたTシャツは、ドリーム・プラネット・ジャパンから発売中の『ゴジラVSデストロイアTシャツ』で、胸にはバーニングゴジラをイメージした灼熱の炎がプリントされているという優れたアイデアの商品である。

破李拳は「ジュニアのデザインは、ゴジラと恐竜の中間をイメージしていて、胴体と脚が一体化した前傾姿勢のスーツが作られました。脚には高下駄を履かせてね。でも、ジュニアの最初の出番で川北監督が『上を向け!』って、空を飛んでいるデストロイアに視線を合わせろと言うものだから困りましたよ。構造上、上なんて向けないのに(笑)。しょうがないから、尻尾をおろして身体全体でふんぞりかえるようにしたら、うまく真上を向くことができました」と、動きにくい造形のジュニアで悪戦苦闘したエピソードや、特撮に情熱を注ぐあまり、かなり無茶な要求をする川北監督について、懐かしそうに回想していた。破李拳による「平成ゴジラVSシリーズ」の思い出は『ゴジラvsデストロイア コンプリーション』と、現在発売中の書籍『ゴジラの中は ある怪獣バカの足型』(発行:オルタナパブリッシング、発売:星雲社)に詳しい記述があるので、ぜひご一読願いたい。

  • イベントでは作品をモチーフにしたメニューも

第2部のゲストは、本作のメガホンをとった大河原孝夫監督と、アメリカからやってきたGサミット情報官・小沢芽留を演じた女優の大沢さやか。大河原監督と大沢は『ゴジラVSモスラ』が初めての顔合わせで、このとき大沢は今村恵子とのコンビで、モスラと心を通じ合わせる小さな妖精「コスモス(小美人)」を演じていた。

大河原監督にとって初めてのゴジラ映画となった『ゴジラVSモスラ』については、「ゴジラの伝統を受け継ぎながら新しいものを生んでいこうと、かなり張り切って取り組みました」と、気合いを入れて挑んだ作品であることを強調していた。モスラを呼ぶコスモス役には、沢口靖子や小高恵美、水野真紀を輩出した「東宝シンデレラ」オーディションで第3回(1991年)グランプリを受賞した今村恵子と、同・審査員特別賞を受賞した大沢さやかのペアが抜擢され、劇中で「モスラの歌」を披露したほか、映画PRのための帯番組『冒険!ゴジランド』などでも活躍した。大河原監督はコスモスについて「彼女たちの衣装を決めるのが、なかなか難しかったのを覚えています。最初、デザイナーが考えていたのは厚手の生地だったのですが、もっと妖精的なイメージで行きたいと意見を出しまして、みなさんご存じのとおりの、あの軽やかな衣装になりました」と、当時の思い出を語った。

大沢は『ゴジラVSモスラ』当時を振り返り、「私のデビュー作だったので、撮影をしている間はとにかく楽しかった思い出しかありません。コスモスを演じているときは、完成した画面がどうなっているのかよくわからずに、監督に言われるままお芝居をしていたように覚えています。ほぼすべてがブルーバックでの合成による撮影だったので、真っ青に塗られた階段を登っていくとか(笑)。撮影終了になると、えっ、もう終わっちゃうのか~と残念な気持ちになりましたね」と、身長18センチの可憐な妖精を演じていたころの、楽しい記憶を振り返っていた。

当時の大河原監督の印象は?という質問に、大沢は「優しく穏やかな感じで、決して声を荒げることのない監督さんです。今こちらにいらっしゃるとおりの印象ですよ」とにこやかにコメント。これを受けて大河原監督は「特撮のほうに、声の大きな方がいましたからね(笑)」と、今は亡き川北特技監督のエネルギッシュな様子を思い出しつつ、笑顔をのぞかせた。

コスモスとしてコンビを組んだ今村恵子との思い出を尋ねられた大沢は、「年齢が一緒だったので、普段から仲良くお話をしていました。レッスンもずっと一緒にしていましたので、波長とかリズムがそろっていたんじゃないかと思います。コスモスは2人同時に話す場面が多いんですが、言葉を合わせるのがすごく自然にできました。普段でも、返事をするとき同時に声が出てしまうことがありましたから(笑)」と、撮影を離れたところでもコスモスと同様に、息の合った立ち振る舞いをしていたことを明かした。

『ゴジラVSデストロイア』では、平成ゴジラVSシリーズ6作にすべて登場している三枝未希(演:小高恵美)と同じく、超能力によってゴジラを感知することができるクールな女性・小沢芽留をクールに演じた大沢。その外見に関しては「監督のイメージが強くありましたから、私はお人形のようにじっとしていて、パーマのかけ方とか帽子の被り方とかもすべてお任せでしたね」と、すべて大河原監督のイメージに委ねていたと話した。大河原監督は芽留の人物像を作り上げるにあたり「小高くんとの対比を第一に考えました。映画後半でのゴジラ対策においてキーになる発言を行う人なので、それなりの存在感を持ってくれないと困りますからね」と、芽留を映画の重要人物のひとりとして印象付けるよう、意識していたと話した。

実際の演技にあたって、大沢は「未希は思いを内に秘めるタイプでしたが、芽留の場合は思ったことをどんどん出していく、そういった対比を見せたいと思いました。普段の2人はとても仲良しなんですけれど、役に気持ちを入れるため、撮影現場では意識的に近づいたりせず、声をかけないように努めました」と役作りに努めていたことを明かし、大河原監督が「そこまで考えていたとは……」と改めて感心するという場面もあった。

『ゴジラVSデストロイア』でゴジラが死ぬ、という部分に関して、大河原監督は「橋本監督の『ゴジラ』(1984年)では助監督を務めていましたし、感慨深かったですね。この作品でゴジラを(いったん)締めくくるにあたって、ゴジラの荘厳な最期を送り届けることができれば、と思って取り組みました」と、本作でも並々ならぬ気合いを込めて演出したと話した。大沢は「ああいう最後を遂げましたけれど、ゴジラは終らないよね~って思いました(笑)」と、ゴジラというキャラクターが不滅であることを見越した感想を、当時から持っていたことを明かして、会場からのあたたかな笑いを誘っていた。

ムック「ゴジラVSデストロイア コンプリーション」は、ホビージャパンより現在発売中。映画の原案、企画書、サンプルストーリーから、撮影メイキング、スタッフ、キャストインタビュー、ミニコラムなど、関係諸氏のご協力のもと貴重な証言と豊富な資料を駆使して『ゴジラVSデストロイア』をあらゆる角度から分析・研究している一冊となっている。

■著者プロフィール
秋田英夫
主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌などで執筆。これまで『宇宙刑事大全』『宇宙刑事年代記』『メタルヒーロー最強戦士列伝』『ウルトラマン画報』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『ゴーグルV・ダイナマン・バイオマン大全』『鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー大百科』をはじめとする書籍・ムック・雑誌などに、関係者インタビューおよび作品研究記事を多数掲載。

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