2018年の世界経済はそこそこの堅調が予想される。だからこそ主要な中央銀行の多くがリーマンショック後の極端な金融緩和からの正常化を進めつつあるか、そうすることを検討している。
そうした中でも、朝鮮半島情勢の緊迫化、中国経済のハードランディング、ビットコイン・バブル(?)の崩壊、原油など資源価格の乱高下など、潜在的なリスク要因は枚挙にいとまがなく、留意しておく必要はある。
2018年も米国がマーケットの中心であることに変わりはないだろう。中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は、パウエル新議長の下でゆっくりと、ただし着実に利上げを続けることができるだろうか。長短金利が逆転するようであれば、経験則では先行きの景気後退が示唆されるだけに、利上げに伴ってイールドカーブ(利回り曲線)のフラット化が進んでいることは気になる。
トランプ大統領の公約だった税制改革がクリスマス直前にようやく成立した。所得税や法人税の減税の景気刺激効果、財政赤字の拡大に伴う金利上昇、米多国籍企業の海外利益還流が為替相場に与える影響なども考慮する必要があるだろう。
1月19日には現行の継続予算が期限切れとなり、また春にはデットシーリング(債務上限)の引き上げが必要となる。議会が対応を誤れば、一時的にせよシャットダウン(政府機関の一部閉鎖)やデフォルト(債務不履行)が現実味を帯びることになる。また、1月下旬のトランプ大統領の一般教書演説や2月上旬の2019年度予算教書で示されるであろうインフラ投資案を共和党主導の議会が実現できるかどうか。11月に中間選挙を控えて、共和党と民主党の党派的対立が鮮明化するだけに、審議は難航することが予想される。
ロシアゲートは新しい展開をみせるかもしれない。12月上旬、上院司法委員会の民主党フェインスタイン議員は「トランプ大統領の司法妨害の可能性を示す根拠が固まりつつある」と語っている。中間選挙の結果にもよるが、トランプ大統領のレームダック化が進む可能性もある。
欧州では、ECB(欧州中央銀行)がQE(量的緩和)の終了を検討しそうだ。そうなれば、金融緩和を続ける日銀が1人取り残されることになりそうだ。
そして、政治面では、反EU(反ユーロ)・反グローバリズムの再燃が懸念される。ドイツでは、年明け早々に連立政権交渉が行われ、その結果次第では再び総選挙の可能性が出てくる。メルケル政権が揺らぐようなら、ユーロ圏にとっても好ましいことではないだろう。
イタリアでは、3月上旬にも総選挙が実施される。ポピュリスト政党「五つ星運動」の躍進が予想され、政権奪取に至らないまでも政治の不安定化を招きそうだ。
英国では、物価が中央銀行の目標を上回るペースで上昇している。普通であれば、BOE(英国中央銀行)はすぐにでも追加利上げに踏み切りそうだが、カーニー総裁はブレグジット(英国のEU離脱)の悪影響を懸念してあくまで慎重だ。
そして、英国とEUの離脱交渉は年明けから、離脱後の通商関係などを決める「次のステップ」に進む。離脱が予定される19年3月から逆算すれば、全EU加盟国の承認を得るために18年10月ごろには最終合意に達する必要があるらしい。最終合意のために残された時間は実はそれほど多くない。最終合意のないままのブレグジット、いわゆる「クリフエッジ」の可能性も否定できない。
日銀は当面、現行の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続するだろう。ただ、マイナス短期金利や長期金利ゼロ%誘導が金融機関の収益を悪化させる弊害も意識され始めている。金利の下げ過ぎが景気に悪影響を及ぼすとする「リバーサル・レート」、あるいは「フラット過ぎるイールドカーブ」といった言葉が日銀関係者から頻繁に聞かれるようになれば、金融緩和の縮小を警戒する必要が出てきそうだ。
一方で、4月8日に任期が切れる黒田総裁の後任人事はどうなるか。仮に、強力なリフレ派が新総裁に選ばれるならば、金融緩和強化が意識されるかもしれない。
その他、トルコやカナダでは、年明け後の早い時期に中央銀行が追加利上げに踏み切るかが注目される。豪州とニュージーランドでは、利上げへの政策転換があるか。両国の中央銀行とも、16年までの利下げ局面から17年は「現状維持」となった。市場では、「次は利上げ」とみられているようだが、早くて18年終盤との見方が有力だ。ニュージーランドでは、政府が中央銀行改革を計画しており、18年3月に就任予定の新しい中央銀行総裁の手腕も注目されるところだ。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。