毎日の食事をしている中で、いつの間にか歯にこびり付いてしまう歯石。口臭の原因になることは広く知られているところだが、そのまま放置しておくと最悪の場合、歯が抜け落ちてしまう危険性もある事実はご存じだろうか。

食事は生きていくうえで欠かせない存在であるだけに、歯石の沈着予防や対策はQOLの維持・向上の観点においても重要となってくる。今回は歯科医の江上理絵医師に歯石の原因や除去方法などについてうかがった。

  • 毎日歯をきちんと磨いていても、歯石はできてしまう

    毎日歯をきちんと磨いていても、歯石はできてしまう

歯石の正体は硬くなった歯垢

歯磨きをしばらくしていないとき、歯の表面を爪でひっかくと、白くてネバッとした汚れが付着した経験はありませんか? このネバッとしたものの正体は「歯垢(プラーク)」と呼ばれるものです。

この歯垢は単なる食べカスではなく、「細菌の塊」なのです。歯垢1㎎(耳かき1杯程度)中には、約10億個もの細菌が存在します。その歯垢に唾液や血液中のリンやカルシウムといったミネラル分が取り込まれ、硬くなってできたものが「歯石」なのです。

歯石ができやすい場所

そうですね。一方で、「毎日歯磨きはしているのに歯石が付く」と感じる方も多いと思います。歯磨きをこまめにしても歯石が付く理由は、しっかり磨けているようで、隠れた磨き残しがあることが多いためです。

例えば、下の前歯の裏側。ここは磨くのが難しい部分ですが、一般的に歯石はこの部分にとても付きやすいのです。舌の下には唾液の大きな出口があり、磨き残しがミネラルを含んだ唾液をダイレクトに受けるため、付きやすくなっているのです。

最近では、歯石が付いているお子さんをよく見かけます。「単なる歯磨き不足」というケースもありますが、他にも考えられる原因があります。舌小帯(舌の裏側にある、ひも状のヒダ)が短い場合、舌の先が下前歯の裏に届きません。本来なら舌が当たることによって歯を押しだし、歯並びが整うのですが、それができないと叢生(そうせい: 歯が重なり、でこぼこした生え方)になりやすく、そうなると歯磨きは難しくなります。

また、舌先が当たることによって、付着した汚れも落とされていくのですが、舌小帯が短いとその自浄作用が働かず、磨き残しができてしまって歯石になりやすいのです。そしてこれはお子さんだけでなく、大人の方にも当てはまります。

歯石の付きやすさと唾液の質の関係

実は唾液の質によっても、歯石の付きやすさが違ってきます。本来、赤ちゃんのように唾液分泌量が多くサラサラしていると、口腔内は唾液自体の自浄作用によって清潔に保たれています。しかし、唾液分泌が悪くネバネバしていると、食べ残しや汚れがきれいに洗い流されず、歯や舌に付着して歯垢から歯石となっていきます。

さらに食後すぐは口腔内が酸性に傾きますが、その酸で歯の表面が溶け出しても、唾液中のミネラル成分の働きにより中和され、さらに再石灰化して歯を守る仕組みになっています。このミネラル成分が多い方ほど、再石灰化も促しやすいです。しかし、磨き残しの歯垢があると、これを取り込んで「歯石」となるため、歯磨きがきちんとできない人も「歯石が付きやすい」と言えるでしょう。

歯石を定期的に取らないといけない理由

歯石は硬く表面がザラザラとしているため、歯周病の原因である細菌のたまり場になりやすいです。歯周病とは歯の周りにある歯周組織を破壊し、その機能を損傷する生理的反応のことです。虫歯(う歯)と同じくらい、広く知られた歯の病気と言えるでしょう。

歯周病になると歯茎から出血します。ただ、「たかが出血ぐらい」とあなどってはいけません。口腔内に存在する無数の細菌が血流によって全身に広がることで「心筋梗塞」「動脈硬化」「脳梗塞」「脳出血」「肺炎」「糖尿病」といった大きな病気を引き起こします。歯周病は、全身の健康と深く関わりがあるため、その原因となる歯石を歯科医院で定期的に除石することを推奨しています。