表現規制とは別の話

また、同キャラクターを「問題視するほうが、かえって差別だと思う」(32歳女性)という意見もあった。テレビの質的調査を行なっているデータニュース社「テレビウォッチャー」(調査対象=2,400人)による番組への感想を見ると、ほとんどの視聴者が今回の騒動に言及していなかったことからも、多くの人が抗議によって問題を意識した経緯が伺える。

これに対しても、藤井氏は「抗議しようがしまいが、差別はすでにそこにある」と反論。「抗議をしてなくても、心の中では怒ってるし、すごく傷ついていたんです。抗議文を出すことで、『テレビを潰す気か』とか言う人もいると思いますが、そんなことを望んでなんかいない。ただ、何が問題なのかを感じた人が、声を上げる意味があったと思っています」と言い、増原氏も「そこは波風であっても立てていかないと、同じことが繰り返されるだけになると思います」と同調した。

この騒動を受け、あるお笑い芸人が「(バラエティ番組で)もう女装もできない時代が来るのではないか」と懸念を示すなど、笑いの表現が狭まることを危惧する声も聞かれたが、藤井氏は「あの番組でも、女装した『ノリ子』というキャラクターが登場しましたが、女装をしてバカにしている対象は、男らしさなんです。つまりは、演じ手にとって"自分"のことでもある。先ほども言いましたが、"当事者性"がないと、いじめが成り立つ余地が大きくなってしまうと思うんです」と話し、表現規制とは別の話だと説明した。

「ゲイ差別の象徴的な存在」という認識の有無

こうして、さまざまな疑問をぶつけてみたが、この取材を通し、本件で賛否の意見が噛み合わない理由が、1つの認識の違いによるものであることが明らかになった。それは、あのキャラクターが、当事者にとって「ゲイ差別の象徴的な存在」と長年認識されていたことだ。最初に登場した30年前は、LGBT差別というものが"言語化"されておらず、その後も大きな抗議はなかったが、2010年代になって発達したインターネット(SNS)というツールが、これまで見えなかった声を顕在化させた結果、ここまで大きな騒動に発展したと言える。

増原氏は「ネガティブな影響を受けたものとして、よく研修や講演で『子供のときに、あのキャラクターがいて、すごく嫌だったんです』という話をして引き合いに出すほど、大きなキャラクターなんです。なので『今、なんで?』という激震が走ったのです」と紹介。今回の騒動を見て、藤井氏は「シンボル的な存在という認識がない人とのギャップは、すごく大きんだなぁとあらためて気付かされた」と印象を語る。

アンケートでは、同キャラクターに「問題があった」と回答した人でさえ、「ネーミングを変えたほうが良いと思った」(39歳女性)という程度の問題に捉える意見があったほど。それゆえ、「こういう前提を共有してる人としてない人で、角度の違う意見がいっぱい出るのは当然なので、ネットで賛否両論出るのは当たり前だと思います」(増原氏)と冷静だ。

そうした存在だからこそ、登場すること自体が忌み嫌われているが、「どうせ出てくるなら、キャラクターがゲイであるとカミングアウトして、周りの出演者が『そんなの当たり前の時代じゃん』ってコントを進行するくらいのことをやってほしかった(笑)」(藤井氏)という"荒療治"を期待する声もあったそうだ。

フジテレビとは「信頼関係を感じられた」

フジテレビ本社=東京・台場

増原氏は「私自身もお笑いは大好き。だから、LGBTに限らず、みんなが安心して笑いたいのに、差別を思い出して傷をえぐられるような思いをさせられるお笑いが、とても残念なんです」と強調。アンケートでも「TVが面白くなくなるという話をする向きがあるが、他人を不快にしないと表現できなかったり面白くできないのならもうなくて良い」(44歳男性)といった意見が寄せられていた。

フジテレビとの意見交換会に出席している藤井氏は、同局の対応について「評価しています。我々の連合会には、企業向けの研修を行う組織も入っているので、そういうところで協力できることがあればという話もしています。だから、信頼関係を感じられた」とコメント。

こうして"炎上"した企業が、その経験を踏まえ、「LGBTの問題にすごく先進的になるというのは、過去にも多く見てきています」(神谷氏)と言い、現在もフジと対話を継続している中で、まさに"雨降って地固まる"という方向へ進んでいる手応えを語っている。

この記事では、タイトル、グラフおよび最初の一文で「保毛尾田保毛男」という名称を便宜上使用していますが、当事者では言葉にするのも不快で「H・H問題」などと通称されているため、その後の文中では「キャラクター」と表記しております。