決められた遊び方がない、そして予め設置された遊具もない……そんな不思議な空間が広がる「プレーパーク」という公園の存在を知っていますか? 子どもの運動神経が伸ばせると噂のこの公園、スポーツトレーナーで、子どもの運動神経を伸ばす運動教室の開発や、著書も執筆している遠山健太さんが、その魅力を取材してきました。
"課題解決型"の人間性を育む公園
今回お邪魔したのは、「世田谷公園」(東京都世田谷区)の敷地内にある「世田谷プレーパーク」です。「自分の責任で自由に遊ぶ」をモットーにしているプレーパークは、子どもたちの好奇心を大切に、自由にやりたいことができる場所を作ろうと、1940年以降ヨーロッパを中心に広がった遊び場。世田谷区では昭和54年から区と住民との協働による事業として実施していて、現在は4つのプレーパークを「NPO法人プレーパークせたがや」が区から受託する形で運営しています。
パーク内には「プレーワーカー」と呼ばれる常駐のスタッフや地域のボランティアがおり、普通の公園ではなかなか体験できない焚き火や泥遊び、木登りなどができるとのこと。早速入ってみると、目の前にはプレーワーカーらが手作りした遊具が置かれていました。
「自分の責任で自由に遊ぶ」という言葉通り、一見どのように遊んだら良いか分からないものばかり。例えば、木材をつなぎ合わせて作られた"武骨"な「すべり台」には、のぼるための階段がありません。つまり、すべるにはまずどうにかして"のぼらないといけない"という課題が目の前に立ちふさがります。
私はこれまで都内200以上もの公園を巡り、スポーツトレーナーとしての観点で"公園が子どもにどのようなメリットがあるのか"を独自に調査してきました。
その中で、公園にあるすべり台の傾きを計測しているのですが、その「すべり台」ならぬ、もはや「のぼり台」の斜度は、計測史上過去最高の39度(一般的には約30度)。中にはのぼれずに、何度も滑落している子どももいますが、ああでもないこうでもないと試行錯誤を繰り返しながらのぼろうとする過程で、「課題解決型の人間性」が形成できると確信しました。
そこでは、のぼれない子に対してアドバイスをする子どもや、のぼれない子同士で協力しながらのぼっていく光景も見られました。協力して物事を実行するという「チームワーク」「対人スキル」を伸ばせるだけでなく、コミュニケーションスキルも養うことができそうだと、1つの空間で大きな発見がありました。
自発的に遊べる環境
さらに興味深かったのが、パークに子どもを連れてくる親の子どもとの関わり方です。できない子どもに対して簡単に手を貸すことはせず、高いところにのぼる、飛び降りるというやや危ない行為も温かく見守っていました。子どもは元来、遊ぶのが仕事。自発的に遊ぶことでさまざまな発想が生まれ、それを実行できるという貴重な体験ができていると感じます。
一般的な公園の遊具は安全性重視で作られています。そのため、親は安心して遊ばせることができる利点がありますが、プレーパークでは良い意味で子どもから目が離せませんし、見てあげることで子どもが成長する過程を発見することもできるでしょう。
子どもの"運動意欲"に火をつけろ
公園内での遊びは、子どもにさまざまな刺激を与えます。例えばすべり台1つとっても、階段をのぼる、姿勢を保持してすべる、最後に立ち上がる、そして再び階段に向かって移動する、という4つの一連の動作があるのですが、その過程でさまざまな関節とそれに付随する筋肉が働きます。
このように公園で遊ぶこと自体が運動体験につながっており、その公園内での遊びのバリエーションが多くの運動スキルを獲得することにつながります。「さまざまな運動体験をすること」はすなわち、「運動神経を伸ばすこと」と同義。プレーパークは、体育の授業や運動教室などでは学べないさまざまな運動体験ができますし、何よりもそこで遊べば遊ぶほど、1人の人間として生き抜く力も備わっていくでしょう。
毎年体育の日になると、文部科学省が学校で行っている体力テストの結果を元に「子どもの体力が低下している」と指摘する報道を目にすることが増えました。私はその背景について、「運動意欲が低い子どもが増えていること」があるような気がしています。
多くの子どもたちの運動意欲に火をつけることができ、低体力化を抑止できる可能性を持つプレーパーク。管理が大変なことからまだまだ数は少ないですが、少しずつ増えてきているとのこと。みなさんも、まずは身近にあるプレーパークに子どもを放り込んでみてはいかがでしょうか。
筆者プロフィール: 遠山 健太(とおやま けんた)
ウィンゲート代表取締役、健康ニッポン代表理事、「リトルアスリートクラブ」代表トレーナー。1974年、米国ニューヨーク生まれ。ワシントン州立大学教育学部初等教育学科卒業。東海大学スポーツ医科学研究所研修員を経て、2004年より全日本フリースタイルスキーチームフィジカルコーチを務め、主にジュニアアスリートの指導を担当する。現在は学研プラスと共同で立ち上げた子ども運動教室「リトルアスリートクラブ」を展開。また都内の公立小学校へ「文部科学省新体力測定結果を用いたスポーツ適性診断」の特別授業も行っている。著書は『スポーツ子育て論』(アスキー新書)、『運動できる子、できない子は6歳までに決まる!』(PHP研究所)、『ママだからできる運動神経がどんどんよくなる子育ての本』(学研プラス)など多数。