ちょっと汚い話かもしれないが、自身の体調を知る有効な手段の一つに「便」がある。一般的にバナナ型なら良好とされており、水っぽいような便が続くとおなかの調子が悪いことがわかる。では血便や排便時の出血が確認されたとしたら__。体が何らかの不調に陥っていることは明らかであり、「どこか悪いのかも」などと不安に駆られる人も少なくないだろう。
具体的に血便などの症状を伴う疾患の一つとして、大腸憩室炎(だいちょうけいしつえん)が挙げられる。今年4月に元モーニング娘。のメンバーとして知られるタレントの吉澤ひとみさんが大腸憩室炎を患っていることを自身のブログで告白。過去にはミュージシャンの玉置浩二さんも罹患するなど、大腸憩室炎になった芸能人も少なくない。
では、何が原因で大腸憩室炎を発病し、どのような治療を施すのだろうか。内科医の大川原華織医師にうかがった。
大腸憩室炎発病のメカニズム
まず、大腸憩室炎発病のメカニズムを教えてもらえますでしょうか。
大腸憩室とは大腸の粘膜の一部が反転し袋状になってしまった状態を言います。大腸壁を血管が貫いている部位は筋肉がないため弱く、腸管内圧が高くなることにより反転・脱出し袋状になってしまいます。
この大腸にできた袋の中に便が詰まると、そこに細菌感染を引き起こし炎症を招きます。この際に憩室に穿通(微小な穴)から穿孔(大きな穴)が空き、腹腔内に腸内細菌が放出されて生じる炎症が大腸憩室炎です。憩室周囲に炎症が限局される方がほとんどですが、発症した約1/4の方が重症化します。
大腸憩室炎の症状
どのような症状を呈する病気でしょうか。
大腸憩室炎では腹部の張り感や軽い腹痛などの軽い症状で治る方もいますし、強い腹痛、発熱や排便異常(便秘>下痢)の症状が現れ、病院に来院される方もいます。病院に来院された後は採血や腹部超音波検査、腹部CT検査を行い他の疾患との鑑別を行います。
憩室を持っていても症状が出ない方も多く、検診などで行う注腸検査や大腸内視鏡検査で初めて指摘される方も珍しくはありません。現在は内視鏡検査に押されている注腸検査ですが、憩室の発見には注腸検査の方が発見率が高いです。注腸検査で指摘された憩室には、大腸内視鏡検査では送気量や前処置の状態、襞(ひだ)の後ろに隠れてしまい観察困難な場合などがあり、指摘されないケースもあります。
大腸憩室炎の原因
発病の原因としてはどのようなものがありますか。
原因としては先天性と後天性のものがありますが、大腸においては後天的な「仮性憩室(憩室壁に筋層を欠くもの)」が多いと言われています。後天性の憩室の原因としては食物繊維が少ない欧米式の食生活などで便秘になり、腸管内圧が上がることが挙げられています。
ただ、はっきりした原因は特定されておりません。例えば欧米人には左側の腸(S状結腸)に症例が多い一方、アジア人では右側の腸(上行結腸)に多いことから、遺伝の影響が強いとも生活環境が影響しているとも言われています。単一の原因ではなく、複数の誘因により引き起こされているものだと考えられています。
欧米人とアジア人でできやすい場所が異なるのは興味深いですね。もしも発病してしまったら、治療はどのように行われるのでしょうか。
症状が軽い場合は、内服抗菌薬と緩下剤、整腸剤などを処方し腸管を傷つけないよう繊維質の少ないお粥などの消化に良い食べ物だけを摂取していただき自宅で経過を見ることも可能です。1週間程度たってから徐々に繊維質の量を増やしていき、1カ月後頃からは通常の食事を食べることが可能です。
症状が強い場合(腹痛が強い、38度以上の発熱がある、内服の抗生物質では治らない場合)や合併症がある場合、採血で炎症反応の数値が高い場合には、入院していただき絶食・水分や栄養剤の点滴、抗菌薬の点滴を使用し経過を見ます。
担当医師によってやり方は多少の違いがあると思いますが、腹痛や採血での炎症反応の値が改善していけば、食物繊維の少ない食事から開始し徐々に食事内容を変更していきます。出血などの再発がないことを確認してからの退院となりますので、入院期間は10日程度となります。