"幸せます"という言葉をご存じだろうか。"幸いです、ありがたいです、うれしく思います"といった意味で使われる山口県の方言である。夏~秋の山口県には、その季節ならではの祭や食、景観……と多彩な魅力があるという。さっそく現地に足を運ぶと、そこでは"幸せます"と言いたくなるような出会いが待っていた。
深緑の山々が映える名橋・錦帯橋
うだるような暑さとは、まさにこのことを言うのだろう。そんな酷暑のなか、「岩国市」にある日本屈指の名橋・錦帯橋を目指して歩いていた。細い路地から急に視界が開けたかと思うと、目の前にはこんな美景が広がっていた。
圧巻のひと言。きっと桜の春や紅葉の秋も美しいだろうが、夏の深緑の山々を背景に眺めるのもまた趣深い。つい先ほどまで暑さのあまりヨロヨロと歩いていたのだが、今やもっと近くで見たいとやや小走りである。
近くで見ると、江戸時代につくられたとは思えない緻密な建築美に魅了される。錦帯橋は、岩国の地を治めていた吉川広嘉が1673(延宝元)年に建設した五連の木造橋。何度も橋が流され、橋を架けるのが困難であると言われていた錦川に、"流れない橋をつくるにはどうしたらいいか"を研究し、長年かけて実現させたものと言われている。
また、現代の調査によると「橋の工法は現代力学の法則に合致しており何ら改善の余地はない」という結果が出たという。数百年前につくられた建築が現代技術と遜色ないとは驚きである。この錦帯橋は今も地元の生活道として人々の暮らしを支えている。
かつて歌川広重や葛飾北斎といった絵師たちがこぞって描いた名橋。長い時を経たが、その美しさは寸分も変わっていない。……そう思って眺めると、歴史ロマンにも想いを馳せることができるだろう。
吉川公にも献上された「岩国寿司」
ちなみに、この岩国市には、錦帯橋をつくった岩国藩主・吉川公にも献上されたと言われている"殿様寿司"こと「岩国寿司」という名物料理がある。名産のレンコンや錦糸卵、椎茸、穴子などの具材がたっぷりと入った押し寿司で、今なお地元ではお祝いごとに欠かせない料理として親しまれている。
この巨大な寿司桶の中に具材を丁寧に敷き詰めて蓋をしたら、その上に職人が乗り、足ふみで固めていく。しっかり押し固めたら寿司桶をひっくり返して中身を出し、これまた巨大な専用の包丁で切り分ければ完成。
現在も錦帯橋周辺には岩国寿司が食べられる店が数多く軒を連ねている。今回の旅では「憩いの宿 半月庵」という料理店で食事をしたのだが、ほのかに甘みを感じる特製の寿司酢がなんとも上品な味わい。具沢山とあって食べ応えも満点だった。