『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)の日本食を紹介するコーナー「THE 美食遺産」では、滝沢カレンが予測不可能な日本語で視聴者を惑わす一方、落ち着いたトーンから次第に激しいラップへと"崩壊"させるナレーションで注目を集めているのがラッパーのACEだ。

ブラジル出身のACEは、3歳で日本に移住。数々のフリースタイル大会で優勝を飾って地位を確立させ、ラップバトル番組『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)の隠れモンスターで知名度が急上昇した。最近では『全力! 脱力タイムズ』のほか『有吉反省会』(日本テレビ系)に出演するなどバラエティ界にも進出。さらには、ドラマ『わにとかげぎす』(TBS系)で役者業にも挑戦している。

ACE 撮影:蔦野裕

そんな彼が自身のツイッターで、Zeebraのつぶやきをリツイートする。「テレビに出てまで売れたくない。OK。それもカッコいい。ただまあ、その間にテレビに出てる他の人達がバカ売れして、結局ヒップホップは人気ないって言われるのはもうゴメンだね」(2017年6月17日)。

テレビに出るラッパーはダサい。ACEはラッパー人生の原点がテレビであることに胸を張り、そんなレッテルを貼られることを覚悟しながら、先のナレーションのごとく「壁」を"崩壊"させようとしている。

放送翌日から「トンカツ」と呼ばれる

――『全力!脱力タイムズ』いつも楽しく拝見しています。日本の食を紹介する「THE 美食遺産」でナレーションを担当されていますが、毎回爆笑です。

ありがとうございます(笑)。もともと番組を拝見していて、すごくブッ飛んでる番組だなと。オファーをいただいて「やったー!」と喜んでやらせていただきました。滝沢(カレン)さん、すごいですよね。ずらし方とかテクニックがある。僕も参考にして、まだまだ勉強しなきゃなと思います。

――収録はどのような流れで行われているんですか?

最初にビートを選んで、トラックを相談させていただいてますが、基本的には自由にやらせてもらっています。字幕で表示されるナレーション原稿が用意されていて、途中からのラップは即興です。

――ナレーションは大きく3つに分かれています。序盤が通常のナレーション、第2段階で少しずつラップが混ざりはじめ、最終的にはテンションMAXに。

初めてやらせていただいた時に、ディレクターさんが「徐々に上がっていく感じ」というイメージをおっしゃっていて、その流れを継続しています。ただ、ラップになるとスイッチが入ってしまいますので(笑)。地上波のあの時間帯で自由にラップをやらせていただくのはすごくありがたいことで、しかもあの長さなのでそれだけ熱が入ります。コンプラ気にせず、あとは編集に任せた! そんな気持ちです。

――番組スタッフもそのあたりの理解があるわけですね。

そうですね。スタッフさんはブースの外にいるんですが、攻めたことを言ってしまった時、本当は困ってるんじゃないでしょうか。見えてないので分かりませんが(笑)。毎回、快く「面白かったですよ!」と言ってくださるので、本当にありがたいです。

――何パターンぐらい録るんですか?

だいたい3パターンぐらいですね。

――即興ラップの中には「いじめ」や「政治」などのテーマ性があったものも。事前にどのような準備を?

最初だけは「政治」のテーマをお願いされていて、2回目からは任せてもらっています。願ったり叶ったりというか。ふざけながらも、本当に伝えたいメッセージも発信できて、その上、ヒップホップのトラックも選ばせていただける。こんなにうれしいことはありません。

――放送後の反響はいかがですか?

最初に放送された次の日には「トンカツ」と呼ばれました(神楽坂・あげづき「特ロースかつ」のナレーション)。それで前日にオンエアされたと気づきました。ツイッターのメッセージもすごく増えましたよ。ラップのことをあまり知らない人にも興味を持っていただけてうれしいです。

――滝沢さんはマイナビニュースの取材で、ライバルが増えて話題になっていることが「本当に悔しいですよ」「笑わずにいられない」とおっしゃっていました。ACEさんは滝沢さんをご覧になっていかがですか?

コメントができないぐらい恐れております(笑)。さきほど言った「ずらし」もそうなんですが、滝沢さんの言葉選びは狙ってできるものじゃない。仮にガッツリ狙ってやっていたとしたら、それはそれで天才です。自然体でやっていてもすごいし、狙ってやっていてもすごい。これこそ天性のものというか。その感覚が自分にはないので本当にうらやましいです。

――エンターテイメント界で「言葉」を武器に活躍している人がいたら、やはり気になりますか。

そうですね。自分にその才能があったら、もっとできることが広がるのになとか想像してしまいますね。

――滝沢さんは自然な「言葉選び」が武器として、ACEさんをはじめラッパーの方々はどのようにボキャブラリーを増やしているんですか?

人によりますね。めちゃくちゃ本を読む人もいれば、中卒でストリート育ちで全く勉強をしていなくても人生で学んだことを語る人も。僕の場合はアニメや漫画から培った言葉なのかなと思います。

ラップで通報された過去

――小学生の頃にアニメ『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』のオープニング曲「WAR WAR! STOP IT」が学校で流行ってラップパートを担当し、『学校へ行こう!』(TBS系/1997年~2005年)のコーナー「B-RAPハイスクール」でラップに興味を持ったそうですね。そして、今。ラッパーの原点は、テレビだったんですね。

そうですね。今でこそラップが流行ってCMで使われたりとかテーマソングになるなんて、ラップをやり続けている僕らの世代からすると本当にすごい! カラオケに行くと、みんな懐かしいラップをどんどん歌って、CMとかアニメのオープニングとか世の中には意外とラップがあふれたんだと実感します。