20代続く老舗宿を経営危機から人気宿へ変革
鎌先温泉の開湯は1428年、古くから傷に効くとして東北の人たちに親しまれ、あの伊達政宗も入湯した記録が残る。「時音の宿 湯主一條」は創業600年、今各種ランキングで「泊まって良かった宿」として高い評価を得る人気宿だ。
大正から昭和にかけて建てられた木造4階建ての本館は、かつて湯治客向けに使用していたものを2004年、女将のアイデアでお洒落な個室料亭として提供。そこから人気に火がついた。2016年にはこの本館が国の登録有形文化財の指定を受け、近年では建築に興味を持つ人の利用も多いという。
2008年リニューアルされたモダン和洋室タイプの客室。安眠を意識し照明にもこだわり、とにかく落ち着く。客室の食器は英国王室でも愛用されるNIKKOブランドのボーンチャイナを採用。洗面台横には濡れたタオルがすぐに乾くホカホカハンガーも備える |
白石蔵王駅から宿の送迎車で鎌先温泉の入り口に到着すると、黒塗りの車に乗り換える。車一台が通るほどの細い坂を一條の森へ上がっていくと、急坂の先に趣のある木造本館が見えてくる。玄関で出迎えを受けるとロビーラウンジに案内され、まずはウェルカムドリンクのお茶とお茶菓子をいただく。チェックインはそれぞれの席でゆったりと行う。
3つの温泉を楽しんだら「時の橋」を渡って個室料亭へ
客室がある別館は2008年にリニューアルされた。客室は最もスタンダードなモダン和洋室でも40平米の広さがあり、窓際には掘りごたつ、床には杉、ライティングデスクにはウォールナットと木をふんだんに使っている。
温泉は露天風呂付大浴場、薬湯、貸し切りの家族風呂の3種があり、いずれも24時間いつでも入ることができる。客室の洗面台横にはホカホカハンガーがあり濡れたタオルがすぐ乾き快適だ。
食事は全て、木造一部4階建ての本館、個室料亭「匠庵(しょうあん)」の専用個室で提供される。食事の時間になると係が客室まで迎えに来てくれ、「時の橋」を渡り、大正時代へタイムスリップ。特に幻想的な空間でいただく会席料理「森の晩餐」の夕食は楽しみな時間 |
食事は朝夕とも専用の個室料亭で提供され、食事の時間になると係の人が客室まで迎えに来てくれる。夕食時、時の橋を渡り「森の晩餐」へ向かえば、古き良き日本へタイムスリップ。
食事の後は夜にはバーに変わるロビーラウンジへ。火曜日はアイリッシュハープやヴァイオリンのコンサートが開催される。一條の裏手にある森には水の神様と御神木、市重要文化財のトチの木、裏山には天狗が相撲を取ったという天狗の相撲場などもある。
白石市には戦国BASARAなどでも人気の片倉小十郎ゆかりの白石城もある。これから桜の季節は特に美しい。この春は白石蔵王に出かけてみてはどうだろう。
筆者プロフィール: 水津陽子
フォーティR&C代表、経営コンサルタント。地域資源を生かした観光や地域ブランドづくり、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、調査研究、執筆等を行っている。著書に『日本人がだけが知らないニッポンの観光地』(日経BP社)等がある。