「いないいない……ばあ! 」。顔を手などで隠し、再び現れるという、ただそれだけのものなのだが、古くから赤ちゃんに大人気の遊びとして伝わっている。あやす方としては喜んでくれてうれしいものの、赤ちゃんはなぜそんなにもいないいないばあが好きなのだろうか。その謎を解明するべく、助産師や保育士、臨床心理士などの専門職により構成された母子支援チーム「Newborn Family サポート協会」のメンバーに話をうかがった。

なぜ、赤ちゃんは「いないいないばあ」に反応するのか

赤ちゃんは、大人が「なぜこれが楽しいのだろう」と思うようなものに喜々として反応する。笑顔を見せてくれれば親としてもうれしく、それだけで本望ではあるが、心の中に微妙な「?」マークが飛んでいるのではないだろうか。しかも、成長するにつれて、いないいないばあなどは子供にとって"全く面白くないもの"に変化していく。実はこういった「赤ちゃんが楽しいと感じる遊び」には、大人も納得の理由があるらしい。

いないいないばあへの反応は「記憶力」に関係

うまれたての赤ちゃんにいないいないばあをしても、通常は期待するような反応は得られないだろう。しかし、ある時から「キャッキャッ」と喜ぶようになる。その理由は、赤ちゃんの脳の発達に関係があるという。

保育士であり、神奈川県の無認可保育室を運営している藤實智子さんは、「うまれて間もない赤ちゃんは、記憶力がほとんどありません。それが発達してくるのは生後5~6カ月頃から。この頃より、いないいないばあを喜ぶようになると言われています」と語る。

人間には「ワーキングメモリ」と呼ばれる記憶機能がある。「作業記憶」とも言われる、思考するために必要な情報を一時的に保持する機能だ。赤ちゃんの脳にその機能が発達してくると、目の前にあるママの顔を覚えておけるようになる。まず、赤ちゃんは、「ママの顔がある」と記憶する。その顔が「いないいない……」の間に隠され、「ばあ! 」で再度出現すると、"隠れたところからママの顔が出てくる"という期待通りのことが起こる。その期待感が面白いのだという。

赤ちゃんの心の声を言葉にすると、「もうすぐ出てくる、出てくる……やっぱり出た! 」というところだろうか。大人でも、手品で自分が選んだカードが現れると、当然出てくると分かっていても「わー! 」と手を打って喜んでしまうだろう。赤ちゃんにとってそんなワクワクは、まさにうまれて初めての体験である。相当面白いはずだ。

しかし、実を言うと"出てくる"のは顔でなくてもいいらしい。とにかく、期待した結果がもたらされることが楽しいようだ。

「もうすぐ出てくる、出てくる……やっぱり出た! 」

赤ちゃんの興味の変化は「手との出会い」から

ところが、赤ちゃんはある時からいないいないばあへの興味を失ってしまう。また、それ以前やそれ以降でも、好きだったおもちゃを楽しく感じなくなり、成長に合わせた遊びをしていくようになるのは誰もが知っていることだろう。果たして、赤ちゃんの脳内ではどのような成長が起こっているのだろうか。

「赤ちゃんは、うまれてしばらくすると自分の手と出会います。そして、ものをつかむ、寝返りを打つといったことができるようになっていきます」と、語るのは、保育士であり一児の母でもある白川さなえさん。赤ちゃんは、そのような「目と手の協応」が次第に発達していき、更に「ものを口に入れて認識する段階」があるという。また、赤ちゃんが認識しやすい色は赤・白・黒と言われているが、だんだんと自分の好きな色も分かってくるのだそうだ。

大人として赤ちゃんを見ていると、「徐々に新しいことができるようになっているらしい」というのは分かる。しかしそれらはいずれも、赤ちゃんにとって"新しい出会いと体験"の連続のようだ。毎日が冒険のようなものである。そう思うと、赤ちゃんの慢心の笑みや驚きの表情、派手なリアクションも理解できる気がしないだろうか。

いないいないばあをしなくても大丈夫?

お母さんの中には、「同じくらいの月齢の子がいないいないばあに反応しているのに、うちの子はしない……」と心配になる人もいるだろう。しかしそれは、「必要以上に気にする必要はありません」と白川さんは言う。子供の成長はそれぞれであり、「その子にとってはまだその時ではない」こともあるという。

これは、いないいないばあに限ったことではない。焦らず、急がず、まずは毎日の冒険を赤ちゃんと一緒に楽しんでみることが大切だろう。

※写真はイメージで本文とは関係ありません

プロフィール: Newborn Family サポート協会

専門職(助産師・看護師・臨床心理士・栄養士・歯科衛生士・整体師・保育士・ドゥーラ等)により構成された母子支援チーム。「Fami Liko」を通じて、会員制サポートのprimary care部門・有償ボランティア団体を併設したwelfare部門の二本柱で家族の状況に合わせた、より個別的なニーズに応ずる柔軟な体制を基盤にサポートを提供している。

筆者プロフィール: 木口 マリ

執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスにつづったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。