舞台ならではの7人の姿を、成長した今の「Wake Up, Girls!」が演じる面白さ
ここからは幾分かのネタバレが含まれることを事前に断っておきたい。なお、舞台版はアニメ劇場版『Wake Up, Girls! 七人のアイドル』と同時期、仙台でWUGが結成される前から物語がスタートすることは公演前から公式サイトで既に公開されている。
アニメと本舞台の最大の違いはといえば、I-1 clubの存在感だろう。『七人のアイドル』ではI-1 clubは印象的なシーンの数々や緻密な設定を垣間見せながらも、あくまでも物語の主体はWUGであるという方針が貫かれていた。舞台版では演劇という作品媒体の特性もあって、I-1サイドのシーンや台詞をかなり膨らませている印象だ。その分白木ゼネラルマネージャーのようなアニメ版の重要なキャラクターの出番がバッサリとカットされており、地方から立ち上がる弱小アイドルWUGと、トップを走り続けるがゆえの苦悩も抱えるI-1 clubとの対比により重きが置かれていると感じられた。WUGとI-1のステージを舞台の上下で同時に見せるような見せ方は舞台ならではだろう。脚本に関してはアニメと同じく待田堂子氏がクレジットされており、足して引いてのさじ加減に抜かりはない。
キャストに注目すると、WUGの7人は声優キャスト自身がステージでも演じているので、やはり違和感は少ない。一番キャラクターとの落差と戦っていたのは、永野だろうか。林田藍里はショートカットでダンスが苦手、永野愛理はロングヘアーでWUG一番のダンス番長というのは真逆にも思える。しかし永野は、うつむいて髪の毛を隠すようにして、最初の頃の藍里の自信のなさと内に抱えたアイドルへの憧れという、藍里の感情をしっかりと演じてみせた。これは長年演じてきたキャストにしかできない、外形だけを似せるよりも難しい挑戦だろう。逆に、元モデルの七瀬佳乃というビジュアルが洗練されたキャラクターを演じる青山は、年齢が近かった4年前より、役者として女性として洗練された今のほうが舞台での在り方がぴったり合っていたように思う。
WUGの7人に共通していたのは、劇場版『七人のアイドル』に近い脚本だからこそ、当時右も左もわからず体当たりで演技していたころより、感情の積み重ねを踏まえた演技が数段進化していて、特に吉岡の「慟哭」や「感情の高まり」の芝居に関しては演者の感情の高まりにこちらが持っていかれるほどだった。もちろん、アフレコと舞台の演じ方は違う部分もある。夏夜を演じる時はマイク前での演技に特化して普段とは違う声を演じている奥野が、声を張った「叫び」に夏夜らしさを乗せていたのは舞台ならではの工夫と進化だろう。逆に、高木や田中がステージでも「キャラクターそのまま」に自分を寄せていく姿はすごかったし、菜々美のあの声質の美少女を生身で演じられるのは山下七海以外には考えられないほどだった。
演出として印象に残ったのは、プロジェクションマッピング的な手法だ。白地の背景パネルに、「事務所」が映し出されていたのが、次の瞬間には仙台の町並みが投影されていたりする。季節の移り変わりを投影映像でスムーズに表現できるのは素晴らしく、このあたりは、イベントやライブ演出にもプロジェクションマッピングを取り入れてきた「Wake Up, Girls!」ならではかもしれない。
そして忘れてはいけないのは、WUGを支え、引っかき回す存在である丹下社長と松田の舞台ならではの存在感だ。特に圧巻だったのが田中良子演じる丹下社長。アニメで日高のり子が演じる丹下社長とは声質が全く違うのに、演技の呼吸が近いというのだろうか。強引で豪腕で短気でマイペースで、でも情には厚く目が利く丹下社長というキャラクターが現実にいればこんな感じだろうか、というイメージを具現化したような存在感。「オーラ」などという抽象的なものを演じきる舞台役者のすごみを体現する演技だった。一方、一内侑演じる松田は、誠実で頼りないが憎めない感じで、舞台ならではのまた微妙に違う味付けで、物まねではなく、一内流の松田として真夢たちに体当たりでぶつかっていく姿に好感が持てた。
声優自身が演じる舞台であり、声だけの演技とはまた違う魅力がある。似た物語を違う形で演じながらも数年前からの成長を端々に感じられるのは、作品と一緒に育ってきた「Wake Up, Girls!」のメンバーにしか表現できないハイパーリンクだろう。新しい表現があるのはもちろん、新曲も用意されているので「Wake Up, Girls!」が好きなファンにも新しい発見があるし、作品を知らないファンにも間違いなく楽しめる上質な舞台劇に仕上がっていた。週末のチケットは完売しているようなので、少しでも興味がある人は金曜日昼夜公演の当日券を入手してみてほしい。
公演後に、そのままステージ上でミニライブが行われたのも「Wake Up, Girls!」ならでは。4年間磨き上げられた「Wake Up, Girls!」のパフォーマンスはもちろん、ライブで舞台新曲「Knock out!!」を披露した「I-1 club」も、様々なバックボーンの7人が、この舞台のためだけによくぞここまで……というほどのパフォーマンスを見せてくれた。最後はWUGとI-1が一緒に歌う「極上スマイル」で、ステージは幕となった。
ミニライブ初日昼公演セットリスト
M-01 ゆき模様 恋の模様/Wake Up, Girls!(新曲)
M-02 Knock out/I-1club (新曲)
M-03 少女交響曲/Wake Up, Girls!
M-04 極上スマイル/Wake Up, Girls!&I-1club