人気コミックを原作に2015年に映画化された『海街diary』(是枝裕和監督)などから、すっかり"海街"のイメージが定着した鎌倉に、素晴らしいハイキングコースがあるのは、意外と知られていないのではないか。海に面した南以外の三方を山に囲まれた鎌倉の峰々の尾根伝いには、いくつかのハイキングコースが整備されているが、今回はそのうちのひとつ「大仏ハイキングコース」を歩きながら、紅葉狩りを楽しもう。
鎌倉観光の玄関口・北鎌倉随一の紅葉の名所へ
鎌倉の紅葉の色づきは比較的遅く、多くの場所で見頃は例年11月下旬~12月上旬頃である。都心から鎌倉へは、JR横須賀線で1時間ほど。鎌倉市には横須賀線の駅が大船駅、北鎌倉駅、鎌倉駅と3駅あるが、大仏ハイキングコースへは、周囲に多くの禅寺が建ち並び、山里の風情が残る北鎌倉駅から歩きはじめる。
北鎌倉駅の下りホームの改札を出ると、鎌倉五山第二位の「円覚寺」の総門があり、その周囲を鮮やかな紅葉が彩っているのが目に入る。「鎌倉五山」については、少し説明が必要かもしれない。
「五山の制」とは、鎌倉時代から室町時代にかけて禅宗(臨済宗)の寺院を格付けした制度で、京都と鎌倉にそれぞれ五山が置かれ、その上に「五山之上」として南禅寺が置かれた。鎌倉五山は、建長寺を筆頭に、円覚寺、寿福寺、浄智寺、浄妙寺が名を連ねるが、五山に数えられること自体が、寺の格式の高さを示すのだ。
さて、円覚寺境内は、普段は禅寺らしく凛とした空気が漂うが、紅葉の時期ともなれば紅葉狩りを楽しむ大勢の人々で、ずいぶんとにぎやかになる。夏目漱石の小説『門』に描かれた三門(山門)のすぐ左奥には、茅葺き屋根の「選仏場」という建物がある。こうした古い建物と紅葉のコラボの美しさこそが、鎌倉で味わう紅葉の醍醐味ではなかろうか。
境内を奥に進むと妙香池という池があり、その周囲の紅葉のグラデーションの美しさは言葉に表せないほどだ。池の少し先にある「仏日庵」という塔頭(たっちゅう)では、抹茶をいただけるので、しばし休憩させていただくのもいいだろう。
●information
円覚寺
住所: 神奈川県鎌倉市山ノ内409
アクセス: JR「北鎌倉駅」徒歩1分
なぜ境内に電車が!?
円覚寺の総門を出たら目の前の横須賀線の踏切を渡り、「白鷺池(びゃくろち)」という池の間を歩いて行こう。地元ではよく知られた話だが、実は踏切を渡った先の県道の辺り一帯までが、円覚寺の境内なのだ。
横須賀線は明治時代に東京と軍港都市・横須賀を結ぶために敷設され、その際、今では考えられないが、「富国強兵」のスローガンの下、寺院の境内に線路を通過させるという荒技をやってのけた。その結果、円覚寺の境内は線路によって分断されてしまったのだ。
さて、県道に出たら左手に進もう。少し歩くと右手に"駆け込み寺"として知られる「東慶寺」があり、その並びには鎌倉五山第四位の「浄智寺」がある。昔懐かしい円筒形のポストを目印に浄智寺への角を曲がり、境内の左側に沿うようにして道の奥へと歩を進めよう。そして、この先にある登山口からハイキングコースに入り、次なる紅葉の名所、源氏山公園に向かおう。
源頼朝にもごあいさつ
山道をしばらく歩くと、源氏山(標高93m)の一角にまつられた「葛原岡神社」の境内に出る。葛原岡神社は、以前は静かな神社だったが、最近は縁結びにご利益ありと評判になり、若い人たちに人気のようだ。
源氏山はモミジの本数が多く、紅葉の名所になっている。特に、源頼朝の銅像が立っている付近は日当たりが良いためか鮮やかな紅葉を楽しめる。広場になっているので、陽気の良い秋は、弁当を広げている人々をよく目にする。
もし、時間があるなら源氏山の周辺には金運にご利益があるとされる「銭洗弁財天」や、立身出世にご利益があるとされる「佐助稲荷神社」もあるので、参拝してみてはいかがだろうか。
さて、源氏山の紅葉を満喫したならば、道標に従い「大仏」を目指して再びハイキングコースを歩いて行こう。この先には"鎌倉版リアル・ラピュタ"が待ち受けている。