全国で315店舗の調剤薬局チェーンを運営するアイセイ薬局では、自社でフリーペーパー『ヘルス・グラフィックマガジン』を発刊し、2015年度「グッドデザイン・ベスト100」に選出されるなど、クリエイティブ性に富んだ様々な取り組みをしている。そこで今回は、こうした取り組みの仕掛け人である、同社コーポレート・コミュニケーション部部長/クリエイティブ・ディレクターの岩崎朋幸氏に、同社がクリエイティブに力を入れる理由や、その仕事術についてお話を伺った。

別業種からの転職が活きた

――岩崎さんはどんなキャリアを経て、現職に就かれたのでしょうか

キャリアのスタートは制作会社でTVCMをつくる仕事に就きました。3年間働いた後、独立してフリーランスの企画演出家になりました。

アイセイ薬局コーポレート・コミュニケーション部部長/クリエイティブ・ディレクターの岩崎朋幸氏

フリーランスのときは、TVCMの企画を考えたり、企画が採用されると撮影現場で出演者に指示したり、どのような美術をつくるかを決めたりと、TVCM制作全体のディレクションをしていました。映像の仕事以外にグラフィックやWeb、イベントプロモーションなど、だんだんと様々なオファーが来るようになり、いつからかクリエイティブ・ディレクターの仕事をするようになりました。4年半フリーランスとして活動し、再度制作会社に6年間所属しました。アイセイ薬局に入社したのはその後です。

――アイセイ薬局ではどのような仕事をされているんですか

僕らが関わるマーケティング・コミュニケーションの仕事領域で言うと、広告宣伝・広報・IR・マーケティング・新規事業開発など、業務領域は多岐にわたっています。

この中でも、IRを除くコミュニケーションの領域では、大きく分けて、お金を払って露出を獲得する路線の"広告宣伝"と、お金を使わないでメディアの露出を図る(パブリシティ)路線の"広報"に分かれます。広告宣伝については、これまでのキャリアで様々な企業のものを制作した経験があるので、どうすれば自分の職能が事業会社で行われているリアルなビジネスの成長に貢献できるのかをずっと考えてきました。結果、自分の強みに加えて、広報領域に対するソリューションを強化することで、自分が携わる仕事が更に広がっていくのではないかと思い、注力してきました。

――前職までのキャリアが、広報の仕事において役立っていることはありますか

自分の専門領域に他の領域が1、2軸加わると、一気に強くなる感覚はありますね。僕の場合は、領域が近しいですが、マーケター、クリエイター、PRパーソンの3つの脳があります。マーケターは、自分が提案している施策や事業がどのように数字に反映させられるのかを考えられる脳です。クリエイターは、アイディアを跳ねさせる"てこの原理"で戦略的なポイントを見つけられる脳。さらに、PRパーソンは裏方としてメディアにどのような素材を提供できるのかを考えられる脳です。そういった打ち手をたくさん持っていると、手法に縛られる必要なく、自分の戦い方を拡張していくことができると思います。

――具体的に実際の仕事ではどのように活かしていますか

広告宣伝であれば、仮に「TVCMとグラフィック、Web、SNSを使ったプロモーションをやりたい」というオファーを受けたとします。大きな枠組みを決めて、それに対してどのくらいのお金が必要なのか、企業が持っている予算はどれくらいなのか。その予算とのギャップが生じないように、企画を形作ります。実際に、企画したものを世間に露出してみて、マーケティング効果が出ているのかをチェック。効果が出ていたらそのまま積み上げていき、効果が出なかった場合は、方針転換して新しいものをつくっていきます。

また、広報のキャリアを積んで思ったことは、メディアの方は完成されたものを求めていない、ということです。メディアの方が求めているのは、料理されたものではなく、魚市場で言う"良いネタを仕入れました"みたいなことだと思います。中には料理の仕方もわからないという人もいるので、その方法も提供するとより重宝がられることもありますね。