ちょっとした階段の上り下りで息切れを感じたときや、ふと鏡で自分の顔をのぞき込んだときに「老いたな……」と感じた経験はないだろうか。誰しもが年齢に逆らうことはできないのだが、老いの実感と疾患リスクに関係があるかもしれないことがこのほど明らかになった。
海外のさまざまなニュースを紹介する「MailOnline」にこのほど、「老いの自覚と認知症リスク関係」に関するコラムが掲載された。
最近発表された研究によると、運動をしなかった人は自分が老けたと感じやすく、認知症の前兆である記憶力の低下が見られた一方で、運動をして友人と出歩く積極的な人は反対の傾向にあることが確認された。カリフォルニア州立大学の研究チームは、この結果が認知症の治療に役立つと考えている。
この研究は、認知障害のない65歳から98歳のアメリカ人5,748人を対象にして行われた。参加者の約半数には2年間、もう半数には4年間の追跡調査が行われた。さらに研究チームは、参加者のうつ経験の有無やスポーツもしくはエアロビクスへの参加度合い、糖尿病歴や喫煙歴なども調査した。
その結果、研究開始時に「自分は実際の年齢より年老いている」と感じた人は、そうでない人と比べて認知障害になるリスクが18%、認知症になるリスクが29%高いことが判明した。また、憂うつで運動しなかった参加者の方が、老けていると感じる人が多かったという。
今回の研究結果は、うつと認知症に関係があるという従来の研究の延長線上にあると、フランスのモンテペリエー大学のヤニク・ステファン氏は考えている。また、カリフォルニア州立大学のエリック・ヴォゲルサン氏は「運動をしたり、友人や家族と共に過ごしたり、趣味を楽しんだりといった若さを感じることをすれば、記憶力の衰えの予防になる」と話している。
「80歳の人が『自分は85歳だ』と感じていると、認知症になるリスクが30%ほど高まります」とヴォゲルサン氏は言う。加齢に関する否定的な固定観念は人々が年寄りに感じる理由であり、このことはこういった固定観念の内在化は認知機能に影響を与え、それゆえに認知症のリスクを高めることを示唆している。
今回の研究では性別や人種、年齢を考慮に入れて分析したが、限界もある。
「認知症以外の健康問題を考慮に入れていなかった。例えば、今回の研究では、ストレスや他の生理学上の問題を考慮に入れていなかった。人が年老いたと感じる原因にはストレスもある。私たちはストレスが認知症に関係すると考えている」とヴォゲルサン氏は言う。
いつまでも若いときのままの気持ちで無理をすると体に反動が来るときもあるが、老いを自覚しないことも大切なのかもしれない!?
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記事監修: 杉田米行(すぎたよねゆき)
米国ウィスコンシン大学マディソン校大学院歴史学研究科修了(Ph.D.)。現在は大阪大学大学院言語文化研究科教授として教鞭を執る。専門分野は国際関係と日米医療保険制度。