『共働き夫婦のためのお金持ちの教科書』(加谷珪一著/CCCメディアハウス/1,300円+税)

「結婚は人生の墓場だ」とかいう、あまりにも使い古されたフレーズを口にしたがる人が、僕はあまり好きではない。少なくともそういう方とは、深いつきあいをできる自信がない。

理由はいたってシンプルだ。生き方も価値観も異なる人間同士が生活をともにするのだから、いろいろあって当然。もちろん苦しいこともあるけれど、それは感じ方の問題だ。ああだこうだと愚痴をいいだしたらきりがないし、総体的に見れば結婚生活はなかなかいいものだと考えたほうがいいに決まっている。まったくもって普通の考え方だと思うが、いかがだろう?

だいいち、そのような側面を持つ結婚生活を否定するということは、自分の能力のなさを認めてしまうことになってしまうのではないか。

とはいえ、結婚すればすべてが解決するというわけではもちろんない。それどころか、解決すべき問題は独身時代以上に増えることになるだろう。しかし、それをふたりで乗り越えていくことが重要なのであり、そこに夫婦としての価値が生まれる。

結婚生活には思った以上にお金がかかる

さて、その「問題」についてだが、最たるものはやはりお金だ。共働きであればそのぶん世帯収入は増えることになるが、そうはいっても結婚生活には"思った以上に"お金がかかるものだからだ(所帯を持っている人なら、この"思った以上に"という部分の大きさを少なからず実感しているはずだ)。

たとえばマイホームを購入しようということになり、住宅ローンを組むとなると、その負担は長期的に家計を圧迫する。また子どもが生まれれば、その教育費は大きな負担となる。あるいは子どもが巣立ったころには、親の介護の問題が浮上してくる可能性もある。「点」のように見えるそれらは実のところ「線」としてつながっているだけに、長期的なビジョン、あるいは「備え」が必要となるわけである。

つまり、愚痴をいっている場合ではないのである。そんな時間があるのなら、そのぶん夫婦で話し合いをするべき。それに、(なにかと頭の痛い)お金の問題を一緒に解決することもまた、夫婦でいることの価値だと考えるほうがよほど建設的だ。

とはいえ現実問題として、住宅ローンや教育、介護費用などと初めて向き合うことになる夫婦には「わからないこと」が多すぎる。ネットに上がっていることのすべてが正しいわけではないし、人のアドバイスもさほどあてにはならない。人生を左右する大きな問題であるだけに、やはり客観的かつ冷静な情報を入手する必要があるのだ。

「共働き夫婦」に特化した実践的な教科書

そこでおすすめしたいのが、『共働き夫婦のためのお金持ちの教科書』(加谷珪一著、CCCメディアハウス)。ご存知の方も多いだろうが、著者は日経BP社の記者から野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務に従事した実績を持つ人物。現在はコンサルティング会社の経営者として、企業に対する経営コンサルティング、ITコンサルティング、資産運用アドバイスなどを行っている。そうしたキャリアを軸にした著作も多く、いってみればお金に関するオーソリティである。

本書の特徴は、いうまでもなく「共働き夫婦」にとってのお金の問題に特化している点にある。しかも内容は、とてもソフトで親しみやすい。たとえば印象的なのが、第1章「お金持ち家族の考え方編」。お金について難解な言葉で解説するのではなく、「高いものを買うべきか、安いものを買うべきか」「「クレジットカードの利用はどうする?」「タクシーを利用すべきか」など、生活者の目線に合ったアプローチを貫いているのである。

もちろんそれは、第2章以降も同じだ。「お金の使い方」「人付き合い」「マイホーム」「パートナー」「貯蓄・保険・投資」「教育費」「親にまつわるお金」それぞれについて、「お金持ちはこう考える(こうする)」という視点で論じているのだ。

「持ち家 VS 賃貸、お金持ちなら?」「お小遣い制に賛成? 反対?」といったトピックスはそれだけで多くの人の好奇心を刺激するだろうし、「株式投資とFX、始めるならどっち?」などは、場合によっては大きな失敗を回避することにも役立つかもしれない。

つまり端的にいえば、「かゆいところに手の届く」実践的な内容。ひとつひとつの話題が1見開きで完結しており、イラストも豊富なので、知りたいことをすぐに確認することができるのだ。だから、いざというときのために、夫婦で利用する書棚の一角にでも並べておいてはいかがだろうか? いずれ、役立つときが必ず訪れるだろうから。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。