6月23日の英国民投票で、「EU離脱」派が勝利したことで、世界の金融市場は大荒れとなった。事前の世論調査では「残留」と「離脱」が拮抗していたが、開票前に「残留」優勢との楽観的ムードが漂っていたことも、市場の反応を大きくしたようだ。
BREXIT(英国のEU離脱)は、EUという単一市場に参加するメリットの喪失、対英投資の減少、移民制限による人口増加率の低下、ロンドン金融市場の地盤沈下、それらの結果としての長期経済成長力の低下など、英国経済にとってマイナス面が大きそうだ。また、英国経済ほどではないまでも、EU加盟国の経済にとってもマイナスとなりそうだ。
離脱条件に関する英国とEUとの交渉はこれから始まり、実際に離脱するまでに2年ないしそれ以上の時間がかかるとされる。メディアでは「リーマン・ショック級」とのフレーズが散見されるが、これはあくまでも一日の相場の変動幅のことを指しているのであって、世界経済に同様の危機が訪れるということではないはずだ。
2008年9月に起こったリーマン・ショックは、サブプライム・ローンやそれを基に組成された証券化商品という「仕組みの破たん」に根差したものであって、それが世界中に連鎖して巨額の損失や金融システムの麻痺を招いた結果だった。
それに対して、BREXITは、EU内の英国からEU外の英国へという「仕組みの変更」だ。英国が市場経済から退出するとでもいうなら話は別だが、市場経済の中においてEUと新しい関係を構築するということである。英国やEUはそれぞれにとってベストとなるような離別の仕方をこれから模索するのであり、その結末が必ずしも悲惨であるとは限らない。
IMF(国際通貨基金)や英財務省の分析によれば、英国がEUを離脱した場合はEUに残留した場合に比べて中長期的な経済成長率は低下する。また、離脱までの約2年の移行期間においても、不確実性の高まりによって、英経済には下向きの圧力が加わるという。
そうした中長期の見通しの変化を一気に織り込もうとしたのが、国民投票の結果判明直後のポンド安や株安といった金融市場の反応だったと言えるかもしれない。
もっとも、離脱交渉が始まってすらいない現時点で、英国とEUの新しい関係がどう構築されるのかは極めて不透明ではある。その新しい関係が明確になるまで、金融市場は時として不安定になるかもしれない。ただ、それはポンドやポンド建て資産の価格が下がり続けるということを必ずしも意味しない。市場の想定よりも英国にとって有利な展開となれば、それらが反発する局面もあるのではないか。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。
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