親であることを考える場づくりを行っている団体「patomato」はこのほど、家事・育児分担における夫婦の感覚の"ズレ"について語り合う座談会、「IDOBATA! ~育児期夫婦のズレ / 再び! 」を開催。働きながら子育てに取り組む男女5人が参加した。

patomato代表の狩野さやかさん

「料理を作って怒られる理由がわからない」

「IDOBATA! ~育児期夫婦のズレ / 再び! 」は、サイボウズ社が制作したワークスタイルドラマ「声」を題材に、夫婦の家事・育児分担について語り合おうというイベント。同ドラマは、1つの家族(子持ち・共働き世帯)の日常を妻と夫の視点双方から描いたもので、「家事をやっていると思っている夫」「夫の家事を不十分に思い、イライラする妻」など、夫婦の意識のズレをあぶりだしている。当日はファシリテーター役を務めたpatomato代表の狩野さやかさん、育児中の母親2人、父親2人が参加。ドラマを視聴したあと、座談会形式で意見を出し合った。

「善意がすれ違うという感じがしました」と語ったのは、1年間育児休業を取得した経験を持つ男性参加者だ。ドラマでは、家事に忙殺される妻に夫が「たまには休めば? 」と声をかけるシーンがある。これに対して妻は、「(自分が休んだら)ごはんは誰が作るの? 」とイライラしながら返し、夫は心の中で「(自分がごはんを)作ったら文句を言うじゃないか」と感じてしまう。共働き夫婦であれば「あるある」の状況だ。

男性参加者もこれと同様の経験をしたそうだ。「自分が育休をとったときには、まさにこの状況。栄養をとってほしいと思ってごはんを作るのだけれど、怒られました。なぜ怒られるのか、理由もわからなかったです」。しかし時間がたって、わかったことがあるという。「妻は産後、食べることしか楽しみがなく、そういう時に調理スキルのない自分が作ったワンパターンの料理が出てくると、"またこれか"と思ってしまったそうです」。

女性は産後、体力的にも精神的にもつらい。普段であればそんなに気にならないことも、必要以上に怒ってしまったのだと今は理解できるとのこと。「当時は互いにコミュニケーションをする余裕がなかった」とも振り返った。

家庭の時間、増やしたくても増やせない現状

男女5人が夫婦の育児・家事分担について語り合った

共感できるという声がある一方、「賛同できる場面がなかった」と話したのは、共働きで子育てに取り組んでいる女性参加者だ。「ドラマに出てくる夫婦がけんかになるのは、お互い時間的にも精神的にも余裕がないから。それを解決するためには、働きすぎるのをやめて、家庭の時間を増やせばいいということは分かりきっています」と指摘。その上で、それができない現状もあると訴えた。

「うちの場合は夫の帰りが遅く、平日はほとんど私のワンオペレーションで家事がまわっているので、ストレスはたまります。でも18時に夫が帰ってきたからといって負担が軽くなるかというと即答できない。夫のごはんを作らなくて済むから、『今日は飲み会だから食べてくる』と言われると内心ホッとする。これが毎日だと、それはそれで悩みなんだろうけど」とのこと。家事を完璧にこなすのではなく、いい意味で手抜きをすることで、負担を軽減したいそうだ。また、「夫より、外に力がほしい」という。周囲に親がいれば親に頼る、外食や家事代行サービスを利用する、といった具合だ。

ほかの参加者からの「イライラしないの? 」「我慢していない? 」といった問いかけには、「仕事をしているとストレスが解消される。夫婦で話し合ってうまくいくというよりは、仕事がうまくいっていることで機嫌よくいられる自分を見つけた」と答えてくれた。ファシリテーターの狩野さんは、「解決の矛先を、夫婦間以外のものに向けるという方法もあるかもしれない」と受け止める一方で、「夫も妻も育児・家事に関わるのが原則。その精神的、時間的負担をどう分け合うのが快適かは、夫婦によって全く違うから、自分たちなりの納得ラインを見つけるのが重要」とまとめた。

夫婦でいる意味を考える

ほかにも、「『フルタイムの夫』と『短時間勤務の妻』であれば、妻が家事をやるべきと思いがち」「いくら夫婦共に時間があっても、自分の手順で家事を回したいので、うまく役割分担できない」といった声があがった。「そんな『べき』や『自分の手順』を捨てることが、『夫婦で一緒にやる』大切な一歩になるのでは」と狩野さん。座談会の最後では、「そもそも、夫婦ってどんな存在? 」という議論にまで発展し、「意識の"ズレ"にイライラしても、一緒にいる意味」について、深く考える機会にもなっていた。

家事・育児への夫の関わりを求める声が相次ぐ一方で、今回の座談会はそれができない現状や、「夫が家庭にいる時間を増やす」ということだけでは解決されない課題も浮き彫りにしたようだ。