いくら寝ても眠たいのには訳がある

一般の人と妊婦の睡眠時間を比べると、妊婦の就寝時間は平均して31分早まり、総睡眠時間としては21.4分延長したという調査もある(出典: 広島国際大学 心理臨床センター紀要 第13号 2014)。妊婦の理想的な睡眠時間は、一般の人と変わらず1日7~8時間(※)と言われているので、時間だけを見ると十分なように感じる人もいるだろうが、妊婦はあらゆる理由で睡眠の質が下がる傾向がある。具体的に妊婦にはどんなリスクがあるのか、その対処法とともに睡眠コンサルタントの友野なおさんにうかがった。

全身症状と精神症状の両方が理由

前回の「妊婦の理想の睡眠時間は? 妊娠すると眠くなる訳」で紹介したように、妊娠によって起こる不快な症状の総称である「マイナートラブル」と睡眠は、相関関係になっている。マイナートラブル自体は、疲れやすくなる倦怠感(けんたいかん)や易疲労(いひろう)、肩こり、腰痛、便秘、頻尿などという症状であり、特にほとんどの妊婦が体験するの妊婦が"三大症状"のひとつである頻尿は、「中途覚醒」という形で、直接、睡眠に影響を与える。

頻尿による中途覚醒も含め、「睡眠充足感」が得られなくなる原因として、特に妊婦に当てはまるものが以下である。

睡眠充足感が下がる理由
・「女性ホルモン」と称されるプロゲステロンの増加
・こむら返りやむずむず脚症候群
・つわり
・妊娠出産への不安や自律神経の乱れ
・上気道が圧迫されることによる無呼吸症候群
・体勢がつらい
・頻尿などの理由による中途覚醒

妊娠中によって高まる「女性ホルモン」のひとつであるプロゲステロンには、体温を上げる働きがあるが、人間が眠るためには体温が下がっていることが必要になる。生理前や生理中になかなか寝付けないという人もいるだろうが、それはこのプロゲステロンが上昇していることが一因となっている。

頻尿が体験する睡眠トラブルは中途覚醒の他、足がつる「こむら返り」や足にかゆみや痛みなどを感じる「むずむず脚症候群」もリクスが高くなると友野さんは言う。こむら返りとむずむず脚症候群はともに、妊娠3カ月以降に出始めて8カ月目にピークを迎え、分娩とともに消滅していく傾向がある。そのほか、つわりや自律神経の乱れ、無呼吸症候群、体勢も、なかなか寝付けない、もしくは眠りが浅いなどの要因となる。

深部の熱を放出して快眠を

では、具体的にどのようにすればいいのか。ひとつずつ考えてみよう。

まず、プロゲステロンの増加によって高まった深部の熱は、血液の循環を促すことで放出させることが大切と友野さんは言う。例えば、38~40度のぬるめのお湯に20分くらいゆっくり入浴、特に手浴・足浴といった四肢を温めることがオススメとのこと。妊婦は体形的な理由もあってお風呂に入るのがつらいという人もいるだろうが、疲れを落とすという意味でも入浴と快眠はセットになっているので、シャワーだけでは十分に熱を放出できない。

こむら返りとむずむず脚症候群の対処・予防法

こむら返りとむずむず脚症候群が起こってしまった場合の緩和方法として、布団を足にかけて温めて、ゆっくり呼吸をしながらつま先を手前に引っ張るといいとのこと。予防のためにできるは、寝る前に足浴をする・靴下を履いて寝るなど、足を温めておくことが大事。就寝前にふくらはぎをゆっくりマッサージするのもいいという。特にむずむず脚症候群は鉄分不足も原因となるので、食事のバランスをみながら鉄分をしっかりとるようにしよう。

精神的な不安は香りで安らぎを

つわりや精神的な不安に対しては、できるだけリラックスした環境をつくることが大切にであり、そのために香りの効果を活用するのも手だ。香りは五感の中でもダイレクトに脳に伝わるものであり、肌に塗ることでも血液にのっかることで全身に巡り、脳にリラックスの司令が届く。

ただし、香りによっては子宮を収縮させるものもあるため、妊婦は天然の精油を使ったアロマオイルを選ぶようにしよう。具体的には、ラベンダーやスイートオレンジ、ベルガモット、ローズウッドなどがオススメだ。ただし、大前提として妊婦に限らず、好きな香りでないとリラックス効果は現れないので、自分が好きなものを選ぶことが重要となる。特に就寝前は特に香りを気にかけてみるといいだろう。

また、入眠前にハーブティーを飲むことでリラックス効果が期待できる。妊婦はカフェインNGと認識している人も多いだろうが、実はハーブティーにもNGなものがある。具体的には、ローズマリーやレモングラス、マテ、ウコン、ジャスミン、ハトムギなど。オススメなのは、ルイボスやカモミール、オレンジピール、ローズヒップ、エルダーフラワーなどで、さゆを飲むのもいいという。就寝前に飲むとリラックス効果があるが、ぼうこうが圧迫されて頻尿になりやすいので、頻尿が気になる人は入浴後すぐなど、就寝直前を避けるようにしよう。

リラックスした状況でいざ布団へ。寝姿勢に関しても、妊婦にオススメの体位がある。続いては寝姿勢や日中に心がけておきたいポイントを紹介しよう。

※1日7~8時間は統計的な数字であり科学的に証明されたものではなく、どの程度の時間がベストなのかは個人差がある