医学的には「安定期」はない

注意したいのは、妊娠5カ月(16週)頃からは、比較的安定した時期ではあっても、決してリスクがゼロではないことです。そもそも「安定期」というのは一般的な用語で、医学的な用語ではありません。

流産が少なくなる安定期に入ってから知人に妊娠の報告をするのは、適切な判断かもしれません。ですが、妊娠5カ月になったからと急に激しい運動をしたり、妊娠する前と同じ感覚で長距離移動を伴う旅行に出掛けたりすれば、体に負担がかかってお腹の張りや出血、破水などのトラブルが起こることもあります。最悪の場合、早産になって赤ちゃんを失うことにもなりかねません。

特に、最近多い高齢での妊娠の場合、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)や妊娠糖尿病になるリスクも高くなります。妊娠中は「安定期」という言葉に油断せず、妊娠期間中を通して体調管理を心がけ、無理せず慎重に行動するようにしましょう。

旅行や外出は、医師に相談して無理のない範囲で

とは言え、つらかったつわりもやっと落ち着いてくるこの時期、「安定期くらい外に出て楽しみたい」という気持ちを持つのは当然です。また、仕事で出張の予定があるとか、これまでできなかった家の掃除や用事を片付けたい、という事情もあるでしょう。どの程度の外出や運動が可能かは、そのときの妊婦さんの体調や赤ちゃんの状態によります。まずは事前に、検診を受けている産婦人科の医師に相談するようにしてください。

もちろん、切迫早産などで安静指示が出ている場合には無理は禁物。もし妊娠の経過が順調で医師からOKが出たのであれば、安定期に旅行に行くのもいいと思います。なるべくなら海外や医療機関の少ない地域は避け、万が一のときに診察を受けられる産婦人科を調べておくなど、備えは万全にしておきましょう。

妊娠中は、自分の体のためにも赤ちゃんのためにも、なるべくストレスなくリラックスして過ごすことも大切です。体の状態を上手にコントロールして、お腹の赤ちゃんとのコミュニケーションを感じながら、健やかな時間の過ごし方を見つけてみてくださいね。

※画像は本文と関係ありません

記事監修: 善方裕美 医師

日本産婦人科学会専門医、日本女性医学会専門医
1993年高知医科大学を卒業。神奈川県横浜市港北区小机にて「よしかた産婦人科・副院長」を務める。また、横浜市立大学産婦人科にて、女性健康外来、成人病予防外来も担当。自身も3人の子どもを持つ現役のワーキング・ママでもある。

主な著書・監修書籍
『マタニティ&ベビーピラティス―ママになってもエクササイズ!(小学館)』
『だって更年期なんだもーん―なんだ、そうだったの?この不調(主婦の友社)』
『0~6歳 はじめての女の子の育児(ナツメ社)』など