「成田縛り」形骸化で課題は山積み

他方、成田はどうか。就航する外国の航空会社の多くがアジア~米国・太平洋線の乗継需要を抱えており、成田と各国の単区間だけで採算を維持するのが厳しい航空会社もあるだろう。このため、どうしても今後の拡大発展はこれら外航に依存する部分が大きく、現在徐々に発着枠に余裕が出てきていると言っても、出発便と到着便が集中する時間帯(バンク)は満杯状態であり、バンク時の路線を拡充することが急務と言える。

成田も羽田同様、東京2020に向けて枠拡大が計画されている

新飛行経路の話題もあって羽田ばかりが目立っているが、成田に対しても2020年までに4万回増と羽田とほぼ同規模の枠拡大が計画されている。ただ、羽田が昼間時間帯を平均的に拡充すればいいのに比べ(どの時間帯でも航空会社側の需要が強い)、成田は朝夕の混雑時間帯を集中的に拡充しなくてはならない。その意味では管制上の工夫や地域住民の理解など、成田の方がハードルはやや高いかもしれない。

また、日本=欧州線は地理的にも大陸間の乗継ぎ需要が少なく、東京が終着地になる傾向が強い。言い換えれば、東京での以遠ネットワークの必要性が薄いため、成田より都心にアクセスしやすい羽田を好む旅客=航空会社が多いのが現実だ。このシフトを防ぐために、羽田に就航するなら成田路線を残すべしという「成田縛り」が行政指導として発動されている。

しかし、実態としてANAはロンドン線に続いて2015年10月よりパリ線も成田便を運休しているし、2015年11月にパリ中心部で起きた同時多発テロの影響でエールフランスが一時的に成田線の休止を要望しているなど、今後、羽田枠の増加に伴い形骸化していく可能性がある。成田としては、LCC(低コスト航空会社)誘致を一層積極的に進めるためのターミナル拡充や運用時間の柔軟化など、検討すべき課題は多そうである。

成田空港は2015年4月8日に、LCC専用としては国内最大規模となるターミナルを開設した

地上路線向上は羽田国内線にも影響

日米交渉を切り口に羽田空港の将来像を考察してきたが、いくつかまだ懸案が残る。「2020年までの増枠は国内線に回らないのか? 」「国内LCCは羽田に参入できるのか? 」などだ。先述したように、2020年までに増加できる発着枠は国内・国際を合わせて1日53枠程度。五輪対応での拡充という背景を考えると、そのほとんどが国際線に充当されると言われているが、それが現実だろう。

ただ、今後5年間に国内にどのような新路線ニーズがあるかは政治的な意味合いも含めて不透明さもあり、現時点で「国内線の増枠はない」とは国交省も言い切れない事情はあろう。しかし、今後さらに新幹線の建設・高速化が進めば国内羽田枠も路線をシフトせざるを得ず、この枠が余ってくることから国内線への新規の枠配分は難しいと考えられる。

また、国内LCCの参入についても可能性は非常に薄い。JAL・ANAとしてはこれを最も避けたいと考えているはずである。少しの便数でも運賃水準が乱されると、全路線の収益性に悪影響がでる恐れがあるからだ。また、そもそも総増枠数が少なく、LCCが既存路線に少便数で参入しても勝算は薄い。

リニア中央新幹線は東京=大阪間を約1時間で結ぶ構想となっている。こうした開発は、羽田空港国内線の路線展開にも影響を与えるだろう

管制能力の向上も課題のひとつ

では、東京2020以降の首都圏空港はどうなるのだろうか。羽田の5本目の滑走路や第3空港建設の議論もあるが、国の予算(財政事情)と費用対効果を考えると一朝一夕に結論が出るとも思えない。

他方、日本の空港の管制能力(発着便数)が海外の同規模の空港に比べて半分程度という事例もあり、かねてから空港の処理能力が妥当なのかという声もあった。管制官の能力が低いという意味ではなく、「航空安全を守る」という旗印のもと、ひとり当たりの処理能力の向上という議論がタブー視されてきた歴史は否定できない。

航空局がもっとも嫌う議論のひとつが「航空管制の民営化」だが、民営化が安全性を阻害するとも一概には言えないはずだ。コンピューター能力の飛躍的な向上という背景もあり、ITの進歩を貪欲に取り入れるなどしながら、5年後の羽田空港の受け入れ能力の向上策がより柔軟かつ広範に議論されることを期待したい。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上におよぶ航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。