空き家を持つリスクとは?

――家を維持していくという方向で話をしていくということですね。ただ、この本はそれだけでなく、家を売る場合、貸す場合など、いろいろな知識が簡潔に書かれていますね。実家をどうするかはこの一冊だけで十分とさえ思いましたが、空き家を持つリスクについて、改めて教えていただいていいですか。

空き家を持っている人のほとんどが問題を先送りして、将来実家をどうするか計画がないから、とりあえず空き家にしているケースが多いんです。仮に、売る時期がいずれ来るのだとしたら、家は使える状態でないと売れないんです。たとえば九州だと土地と建物で1500万円ぐらいで商いされるところが多いと思いますが、5年もほったらかしにして建物が使えないくらいにしていたら、買う人は建物を壊して建てないといけない。1500万円の土地なのに、建物で2000万円とか3000万円の予算で建てられる人を地方で探すのは難しくなる。今の家が使える状態で、4~500万円で手直しすれば住める状態であれば、まだ買う人はいっぱいいるんです。空き家をほったらかにして先送りにすると、建物が使えない状態になるので、建て替える人を探すというのは難しくなってしまうんです。

――法律が絡んでくるわけですね。空き家特措法が適用されると、「特定空家等」になってしまうと、固定資産税が6倍になる。

全国に820万戸の空き家がありますが、種類を分けると一番多いのは賃貸の空き家。450万戸くらいありまして、その次に多いのが何もしていない空き家が320万戸あります。ほったらかしになっている空き家です。この前データをとったら、何もしていない320万戸は、建物があるから固定資産税が安くなるということで空き家にしているケースがほとんどです。このうち利活用できるのは48万戸しかないというデータが出ています。それ以外は活用できないぼろ家が土地にのっかているだけの空き家になっている。ほったらかしにするということはそうなってしまうということです。「特定空家等」予備軍です。

――利活用できそうなものは48万戸しかない。272万戸に関しては建っているだけですね。自分の家が「特定空家等」予備軍だと認識している人はどれぐらいいるのでしょうか。

いないでしょう。「特定空家等」を解体するための行政代執行で壊した費用は持ち主が負担します。10月に横須賀市で解体、行政代執行となりましたが、建主が不在だったので、壊した費用は市の負担になってしまいました。ですが、これから持ち主が負担するケースが出てくると思います。

――持ち主がわかっていたら、持ち主に請求されるのですね。恐ろしいことですね。土地を持っていると、土地の分も固定資産税が上がりますし、さらに代執行、壊した解体費用も負担するということですね。こんなに「特定空家等」予備軍があるというのは、理由は何ですか。地方から都市への人口移転が進みすぎたということですか?

ほったらかしにされている家が多いのは、過疎化して人がいなくなっていることが大きいです。

高橋氏は、空き家を放置することのリスクを語ってくれた

兄弟姉妹の絆は意外ともろい?

――今回の本では、相続について、親とのつながりは深いものがあるが、兄弟姉妹は意外ともろいと書かれていますね。

年齢が一番上の人が長男であればほとんどもめないんです。もめるケースが多いのは、末っ子長男や、三人兄弟の真ん中にいる長男の場合です。お姉ちゃんに溺愛されている長男坊で、自立心がなくて依存心ばかりで、親の面倒などはお姉ちゃんを頼るのですが、長男には配偶者がいる。配偶者が、あなた長男だからきちんと言いなさいということがよくあるケースです。兄弟間がもめているケースの5組中4組くらいは、年齢が上の長女と年齢が下の長男がいるケースですね。

――初めて聞きました。そうならないためにはどうすればいいのですか。

役割分担を決めざるを得ないと思います。なかなかできないんですが。親がどこに住んでいるのか年齢を考えて、介護になったら誰が面倒をみるのか、などの話です。願わくば、財産の話もできればいいのですが、そこはなかなかできないんです。

――親に何かある前に役割分担を決めればいいわけですね。財産の話もできればということですね。

現金は親は亡くなるまで口を割らないケースがほとんどです。見えるのは不動産だけです。生命保険も聞ければいいのですが。つまり、お金の把握がなかなかしづらいということです。共通で対応できるのは、不動産は実家やアパート、駐車場などは大体わかるはずです。これをベースにどういうふうにするかは、兄弟姉妹間で話し合った方がいいですね。世の中の相続の裁判が起きている71%は5000万円以下ですから。

――5000万円以下でも、法改正で相続税の課税対象になるケースが増えましたね。少ない財産を巡って争うことになりますね。

都心部では申告の対象になるということですね。申告をしなければいけない人は、東京だと2人に1人はいると試算されています。なぜトラブルになっているかというと、大概は不動産なんです。現金がなく相続財産は自宅だけというパターンが多いので、不動産しかないからもめるんです。

――不動産のことがある程度わかるのであれば、兄弟姉妹間で不動産の話だけでもしておけばいいですね。

未然に防ぐことができます。

――不動産登記は共有しない方がいいと書かれていましたね。共有するともめるんですね。

共有はその場はおさまりますが、その先、兄弟が3人いたとして、経済状況が違うので、お金に困る人がいれば、困らない人もいる。売りたい人が出たり、活用したいという人が出たり。

――妻も、私か妹かどっちかが継ぐべきと言っていました。

家は割れないから、長男が家を相続して、それ相当の金額を払うのがいいのですが、そんな人はなかなかいない。

――親が持っている現金はなかなか言わないし、亡くなるまでわからないケースが多いわけですね。それが悩ましいですね。それがわかれば、家は自分が継いで、現金は妹にとか。

現金が後からわかれば、それはプラスの話なのでどうにでもなる。現金が出てきて、相続税が思いのほかかかってしまうということはあるかもしれませんが。

――不動産しかない場合がもめるということですね。難しいですね。兄弟で話し合うコツはありますか。

長男がしっかりしていれば。この本を読んだり、この記事を読まれている人は、心配する火種を持っている人でしょうから、その人が中心になって話す場面をどうやってつくるかということを考えたらいいですね。

――誰かが中心になって話をするということですね。

ステークホルダーは、配偶者も利害関係者なので、100%参加するのは難しいと思います。みんなが公正証書をつくってやるということはできないと思いますが、とはいえ、それぞれ配偶者の意見も持ってきて兄弟間で話をした方が、リスクは軽減されます。

――わかりました。最後に、インタビューの記事を読まれた方に、高橋さんからメッセージはありますか。

本にも書きましたが、相続のことを心配しているのは自分たちで、親とは面と向かって話しづらい。だから、こういう話をするときは、親の幸せを願うということを自分に言い聞かせないと、話がこじれてしまいます。相続対策は親の幸せを願うという前提で、言葉を選ばないとトラブルになってしまって、真意が伝わりません。ポイントは、親の幸せを願うことで、自分にできるところから始めた方がいいです。そうは言ってもすぐに思うとおりにはなりません。1回でできることではなく、何年もかけてじっくりとやるぐらいの覚悟が大切です。トラブルは予防が一番です。早めの準備をして、逃げないで、ゆっくりと進めることが重要です。

――親の幸せを考えながら、言葉を選んで、ゆっくりと取り組むということですね。本日はお忙しい中ありがとうございました。