茨城県大洗町は東京から約100km、太平洋に面した海のリゾートだ。2014年の観光入込客数は430万人、夏には海水浴で39万人を集めている。また、年間16万人が利用する「大洗温泉」、そして、11月に映画化もされたTVアニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台としても脚光を浴びている。だが、大洗にはこれ以外にも知る人ぞ知る絶景と冬の美食グルメがある。今回はまだまだ知られていない、そんな大洗の魅力を紹介しよう。

「アクアワールド大洗水族館」には日本最大のマンボウ専用水槽も。画像提供: 大洗観光協会「写真ギャラリー」

大洗海岸の夜明けは2つのシンボルとともに

大洗海岸には、日本最大のマンボウ専用水槽や50種以上のサメの飼育などで年間100万人超の入館者を集める「アクアワールド大洗水族館」や、パワースポットとして知られる大洗磯前神社の「神磯(かみいそ)の鳥居」、地上60mの「マリンタワー」や太平洋を臨む「リゾートアウトレット」など人気観光施設が集積している。その「神磯の鳥居」から徒歩3分のところには、ここ大洗でしか見られないもうひとつの観るべき絶景がある。

役目を終えた旧大洗岬灯台。夜はライトアップされ、打ち寄せる波と相まって幻想的な姿を見せる

その絶景は、大洗海岸に立つ旧大洗岬灯台と灯台に打ち寄せる波が描き出すの景色。日の出の時刻、波はキラキラと金色に輝き、オレンジに染まった空に浮かぶ灯台のシルエットは絵葉書のように美しい。一方、夜になると灯台はライトアップされ、打ち寄せる波を纏って闇に一際白く浮かび上がり、この世のものとは思えない光景を見せる。

神磯の鳥居のすぐそばにある旧大洗岬灯台は、長く地元漁業関係者の山じめ(操業時の目標物)となってきたが、その役割を終え、2005年国から大洗町へ払い下げられた。実は灯台は役目を終えた際、取り壊しの話があったが、大洗町や灯台の目の前に立つ「大洗ホテル」が保存を呼びかけ、観光灯台として残されることになった。

大洗海岸の夜明け。大洗磯前神社の「神磯の鳥居」(写真)と旧大洗岬灯台の2のシンボルが、神秘的な光景を織りなす

海岸の美景を部屋のお風呂から楽しむ

役目を終えた灯台にもう灯は灯らないが、大洗ホテルでは灯台に毎夜屋上からスポットを当て照らし続けている。大洗ホテルの歴史は古く、創業は昭和15年(1940)。社訓に「おもてなしと地域貢献」を掲げて70年以上、大洗のリゾートの魅力づくりに取り組んできた。

大洗ホテル前には海の見えるプールがあり、小さな子どもでも安心して入れる

大洗ホテルは温泉ではないが、最上階の9階には太平洋を臨む展望大浴場を有し、2011年にはカフェラウンジやガーデンテラスを改装。一部客室にオーシャンビューバルコニーと半露天風呂を備え、より優雅に海のリゾートライフを楽しめるようになった。ホテル内に海を望むプールもあるため、夏場は海水浴目的のファミリー層の利用も多い。

オーシャンビューバルコニーと半露天風呂が備えられたスーペリアルーム。より優雅に海を眺めて寛げるバルコニーでは、誰にも気兼ねなく海を眺めながらお風呂が楽しめる

料理は地元茨城の食材にこだわったものが多い。夕食はハーフバイキング方式で、席に着くとすでにお造りなど、数種の料理が用意されており、落ち着いて食事ができる。バイキングコーナーにはバリエーション豊かな料理が並び、和洋菓子、フルーツ、アイスなどのスイーツも充実している。こうした施設やサービスの充実により首都圏はもちろん、高速道路の開通に伴い長野、山梨からの客も増えている。

夕食では、席につくとお造りや地元茨城の食を盛り込んだ「いばらきの盆」などの料理が用意されているほか、「いばらきの味」のコーナーなどバリエーション豊かな料理をバイキング方式で楽しめる。デザートバイキングも多彩な和洋菓子にフルーツ、アイスなどが充実

今が旬のあんこうを茨城発祥のあんこう鍋で

一方、長野に行くと冬はあんこうを食べに茨城に行くという声をよく聞くが、茨城であんこうが食べられることを知る人はまだ少ない。

あんこうの見た目はグロテスクだが、味は「東のあんこう、西のふぐ」と称される美食グルメだ。その身は脂肪が少なく、コラーゲンたっぷりなのに低カロリーで、美容と健康にも良い。あんこうは11~3月がシーズンだが、肝が肥大する12~2月が一番おいしいとされる。あん肝は「海のフォアグラ」と呼ばれ珍重されるが、実はあんこうは骨以外の全ての部位が食べられ、それを通称「あんこうの七つ道具」という。

大洗ホテルでは、茨城自慢のあんこうの吊るし切りが一般にも披露される。画像提供:大洗ホテル

「あんこう鍋」はこの七つ道具、身、肝、ひれ、えら、皮、ぬの(卵巣)、胃袋、それぞれの味わいや食感を楽しむことができる。料理法はそれぞれの店や宿で異なり、食べ比べも楽しんでほしいが、今回紹介した大洗ホテルでは、あんこうの季節、毎夕ロビーであんこうのつるし切りの実演も行っている。

あんこうの7つ道具を味わえる「あんこう鍋」。画像提供: 大洗ホテル

元旦には大洗磯前神社の神職が御祭神降臨の地である神磯(かみいそ)に降り立ち、太平洋に昇る初日の出を奉拝する姿が見られる。神磯の鳥居の先には大洗神社へと続く道が伸びており、正面大鳥居をくぐり石段を登りつめると神社が見えてくる。神磯の鳥居に昇る日の出を見た後は神社本殿へとお参りし、清々しい大洗の朝を満喫してほしい。

絶景にパワースポットに加え、夏はマリンリゾート、冬はあんこう鍋と大洗の楽しみは尽きない。

※記事中の情報は2015年12月のもの

筆者プロフィール: 水津陽子

フォーティR&C代表、経営コンサルタント。地域資源を生かした観光や地域ブランドづくり、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、調査研究、執筆等を行っている。著書に『日本人がだけが知らないニッポンの観光地』(日経BP社)等がある。