前編では、マタニティー・ハラスメント(マタハラ)に関する国の調査結果を受けて、労働問題を専門とする旬報法律事務所の新村響子弁護士から現状と対策を伺った。後編となる今回は、違法とされるマタハラの具体的な事例やマタハラを受けたと感じた際にできることをご紹介する。
職場復帰後のトラブルが増えている
マタハラが違法と認められた事案として記憶に新しいのが、妊娠を理由に降格されたとして、理学療法士の女性が勤務先の病院を訴えた裁判だ。2014年10月、最高裁は「妊娠や出産を理由とした降格は、自由な意思に基づく明確な同意か業務上必要な特別な事情がなければ違法」との初めての判断を示した。さらに11月17日には、差し戻し審となる広島高裁で降格が違法と認められ、病院側に賠償命令が出されている。
これらの裁判の影響について新村弁護士は、「マタハラに対する関心が高まり、弁護士などへの相談や裁判の数が増えたと感じる」と述べた。さらに最高裁判決のあと、国は「妊娠や出産、育児休業等から1年以内に事業主が行った不利益な取り扱いは原則違法となる」という内容の通達を全国の労働局に出している。「裁判所に加えて行政の意識も高まっている」と、その影響の大きさを語った。
一方で、最近増えていると感じているのが「職場復帰後」のトラブルだという。新村弁護士によれば、退職や契約社員への切り替えを勧められたり、本人にとって不利益な配置転換を迫られたりしたという内容の相談が多いとのこと。このうち配置転換に関しては「職場復帰後、必ず元の配置に戻さなければいけないという明確な法律はないため、違法かどうかが争いになりやすい」と課題を述べた。
マタハラにあっていると感じたら「録音」を
厚生労働省は法律で禁止されている行為として、「解雇」や「雇い止め」のほかにも、「人事考課で不利益な評価を行う」「仕事をさせない」などをあげている。しかし、自分が受けたものがマタハラにあたるのか、あたるとしてもどう解決したらいいのか分からないケースが多いのではないだろうか。
これについては、労働局の雇用均等室に相談することを勧めた上で、「雇用均等室で解決が得られなかった場合にも諦めずに、弁護士を頼ってほしい」と語った。さらに、紛争解決の場で大事になってくるのが「証拠」だという。「マタハラとわかるような言葉の内容が、証拠として具体的にわかる"録音"が有効」として、「マタハラは繰り返し行われることが多いので、様子がおかしいと思ったらボイスレコーダーや録音アプリを起動したスマホをポケットにしのばせて」とアドバイスしてくれた。
マタハラへの関心は高まっているものの、国の調査結果からもわかるようにトラブルはなくなっていないのが現状だ。妊娠・出産・育児を迎える女性たちが知識を持つことに加え、職場を中心とした周囲の理解が広がっていくことを期待したい。
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