顔のえら、気にならない?

自分の顔に対して、多くの人が大なり小なりコンプレックスを抱えているのではないだろうか。顔の形に悩みを抱えている場合、整形外科に診察をお願いすることになると考えている人もいるかもしれない。だが、実は「えら張り」のようなフェイスラインにまつわる悩みは歯科でも解決できるのだ。

今回は、M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長の今村美穂医師に、えら張り顔の原因とその治療法について伺った。

食いしばりと歯ぎしりが元凶

今村医師は、歯科の見地からすれば、えら張り顔を招く原因として顎関節(がくかんせつ)症があると話す。顎関節症とは、物をかんだり口を開け閉めしたりする際、あごを動かす咀嚼(そしゃく)筋に痛みや雑音がある疾病だ。

「顎関節症の人は、日ごろから歯を食いしばっていることが多いです。食いしばりのように歯がすり減るような負荷が歯にかかっていると、咀嚼筋の一つである咬筋(こうきん)や他の咀嚼筋がかなり緊張を強いられる時間が長くなります。すると顔の鼻から下部分が下がり、横に膨らんでいきます。結果として、口周りの筋肉が発達して口が開けにくくなる『開口障害』や、えらの張るような顔貌になってしまいます」。

今村医師は、意外と多いケースとして「睡眠中の歯ぎしり」による食いしばりがあると話す。そこには、毎日の食事での咀嚼が密接に関わってくる。

私たちは咀嚼を通じて「かみたい欲求」を日々、満たしている。ただ、近年はやわらかい加工食品が多くなり、1回の食事での咀嚼回数が極端に減った。今村医師によると、あわやひえなどの雑穀を主食としていた時代は、1回の食事で平均3,000~4,000回の咀嚼を行っていたが、現在はラーメンやカレーなどを食べると100~200回の咀嚼で終わってしまうという。その咀嚼への無意識の欲求が睡眠時の歯ぎしりとなって現れ、えら張り顔につながるというのだ。

うつぶせ寝やほおづえもNG

さらに、日常のちょっとした習慣も顎関節症を招く恐れがあるという。その一つが「うつぶせ寝」だ。大人の頭の重さは平均で体重の10%(4~7kg)あるが、うつぶせ寝だとその重量が負荷となってあごにかかる。すると歯のかみ合わせが悪くなり、あごもゆがんでしまうため必ずあおむけで寝るようにしよう。また、「ほおづえ」「片方だけの手に偏った爪かみ」もNGだ。

生活習慣改善でダメならボトックスという選択肢も

では、食いしばりや歯ぎしりをやめるためにはどうしたらよいのだろうか。まず、日常生活に簡単に取り入れられるものとして、「硬い物を食べる」がある。「かみたい」という無意識の欲求を満たすため、例えば野菜だったらなるべく生で食べるとか、大きめに切って料理するとかの工夫をするとよい。

日ごろから食いしばりを自覚している人には、「舌トレーニング」がお勧め。舌を上あごにつけて、舌先が「切歯乳頭」(上の前歯の後方歯肉部分)を触った状態を維持・意識すると食いしばりができなくなるため、このトレーニングを改善のスタートとするようにしよう。それでもだめな場合、もしくはすでに顎関節症やえら張り顔で悩んでいる場合、ボトックス注射という選択肢もある。

「顎関節症や歯ぎしり対策として、ボトックス注射を使用するクリニックも増えてきています。注射で咬筋の力を一時的に下げ、歯ぎしりや食いしばりの癖を改善させ、効果が出る約半年間で様子を見ます」。

ただ、今村医師はボトックスを「最終手段」と話す。顔のえらが気になる人は、まずは日常生活でうつぶせとほおづえはやめ、なるべく硬い物を食べるようにしよう。

※写真と本文は関係ありません

記事監修: 今村美穂(いまむら みほ)

M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長、MIHO歯科予防研究所 代表。日本歯科大学卒業、日本大学矯正科研修、DMACC大学(米アイオワ州)にて予防歯科プログラム作成のため渡米、研究を行う。1996年にDMACC大学卒業。日本矯正歯科学会認定医、日本成人矯正歯科学会認定医・専門医。研究内容は歯科予防・口腔機能と形態 及び顎関節を含む口腔顔面の機能障害。MOSセミナー(歯科矯正セミナー、MFT口腔筋機能療法セミナー)主宰。