「孫育て」のための休み取得で企業に奨励金。現状は?

近年注目を集めている「子育て」ならぬ「孫育て」。政府も3世代同居に向けた住宅建設や親子の近居を支援する方針を示すなど、家族の支え合いによる子育て環境の整備を進めようとしている。そんな中、福井県と岡山県は、祖父母が孫の育児のために休みを取得した場合、企業に奨励金を支給する制度を今年度から導入している。制度を作ることになった背景や現状についてそれぞれ担当者に聞いた。

3世代同居率の高さが背景

福井県が今年度から実施しているのは「父親・祖父母の育児休暇等取得促進奨励事業」と呼ばれるもの。父親に加えて、就学前の孫を預かる祖父母が休暇を取得した場合、企業に10万円の奨励金を支給する。条件としては、「連続する10日以上の育児休暇等を取得」または「最低5日以上の連続する育児休暇等を2回、計10日間以上取得」していることが必要となる。

県がこの制度を導入した大きな背景としてあげられるのが「3世代同居率の高さ」だ。2010年実施の国勢調査によれば、福井県の3世代同居率の割合は17.6%と全国2位。幼児家庭8,348世帯を対象に県が実施した調査では、祖父母が同居もしくは車で30分以内の範囲に住む世帯は全体の90%以上にのぼっている(2012年)。

担当者は「福井県は繊維、メガネなど労働集約型の製造業が盛んで、女性が働くことに抵抗が少ない。昔から同居している祖母が子どもの面倒を見てあげるという家が多かった」と回答。実際に共働き率は56.8%で全国1位(2010年実施の国勢調査による)。県が幼児家庭を対象に実施した調査によれば、保育所・幼稚園から帰宅後に幼児の面倒を見る家族として「母親」(75%)に次いで「祖母」(38%)があがっている。

定年を65歳に延長する企業や、定年後もパートで働く高齢者が増加していることも制度創設のきっかけとなった。結果として、これまでに4社が奨励金を受給しているという(祖母が休暇を取得)。

「孫育て休暇」の制度化に実績

一方岡山県では「孫育て休暇奨励金」という制度が導入されている。労働者が孫を養育するために1日以上の休暇を取得した場合、企業に対して5万円が支給されるというものだ。担当者は「親だけでなく、周囲の家族や地域が子育てに参画できるよう、企業に後押ししてもらいたい」とその趣旨を説明してくれた。

岡山県の取り組みが福井県と違うのは、奨励金の支給条件として、企業が休暇を制度化する必要があるということだ。県ではこれまで5社に対して奨励金を支給。これに伴って各企業は「孫育て休暇」(労働者がその孫を養育するための休暇)を社内の制度として導入した。これらの企業では、社員から「孫の世話をしたい」という声が多く聞かれたという。県は「もともとニーズのある制度だったと実感している」とコメントしている。

家族だけでも、公的サービスだけでも、支えられない

先進的な取り組みを進める同県。しかしいずれも「孫育て」に育児の全てを頼ろうとしているわけではない。福井県の担当者は「3世代同居率は年々減少しているし、県外から越してきた人など祖父母の助けを得られない人もいる」と指摘。平成13年から待機児童0を実現するなど、公的な保育サービスの整備にも力を入れていると話した。

また岡山県の担当者も、「家族だけでも、公的サービスだけでも、育児を支えることはできない。社会総出のサポートが必要だ」と語ってくれた。

さらに孫育てに関われる範囲は個人によっても異なるだろう。具体的には、「夫の介護が始まり、とてもじゃないけれど孫の面倒までみられない。3カ月に1回くらいの頻度で孫を連れて帰省してきて孫の世話を頼まれるけれど、これは食べさせてはいけないといった食事のルールやテレビ禁止など決まりごとが多くて憂鬱(ゆううつ)」(60代女性)といった声も聞こえる。

「やっと子どもたちが巣立っていって、自分の時間を持てると思ったら今度は孫の世話。孫はたまに見るからかわいいのであって、日常的なサポート要員とされると正直しんどい。体力的にもつらい」(70代女性)というように、その頻度によっては大きな負担を感じる人もいるのだ。

育児の負担が誰かに集中するのではなく、広く地域や社会までが支えていける環境づくりが求められている。

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