シオノギ製薬はこのほど、東京都内にて「患者さまのQOL向上をサポートするアレルギー性鼻炎治療 ~世界初、舌下錠タイプのダニアレルゲン免疫療法薬~」と題したセミナーを開催。千葉大学大学院医学研究院 耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学の岡本美孝教授が登壇し、アレルギー性鼻炎やその最新の研究法などについて講演した。
国民の4割がアレルギー性鼻炎に悩む
アレルギー性鼻炎は「発作反復性のくしゃみ」「水性の鼻水」などを特徴とする。日本国民の4割がアレルギー性鼻炎に悩まされているとも言われているが、近年増加しているのは「季節性アレルギー性鼻炎」、いわゆる花粉症だ。
一方で、年間を通して症状に悩まされる「通年性アレルギー性鼻炎」もあり、子どもに患者が多い。その主な原因(アレルゲン)に関し、岡本教授は「9割、あるいはそれ以上がダニが原因とされていますが、そのほかにはカビや昆虫の死骸もアレルギー性鼻炎を起こすと言われています」と話す。
全国の耳鼻科医とその家族を対象にした調査によって、0~4歳ですでに通年性アレルギー性鼻炎の有病率が4%となり、5~9歳では2割を超えることがわかっている。10代と20代では3人に1人以上が症状に悩んでいることも明らかになっており、しかもこの有病率は増加しているという。
ダニを寄せ付けない環境づくりも大切だが…
患者が増えてきている通年性アレルギー性鼻炎の治療の一つとしては、「アレルゲンの回避」がある。すなわち、住居環境にダニを寄せ付けないよう、毎日掃除をしたり、こまめに布団干しをしたりすることだ。また、アレルギー性鼻炎治療薬を選択するという手段もある。
だが、それでも症状が治まらない場合は「アレルゲン免疫療法」(減感作療法)が有効だと岡本教授は指摘する。同療法では、希釈したアレルゲンエキスを少しずつ濃度を上げながら、注射で皮下投与。2年以上の治療期間の中で徐々に体質改善をはかることで、「アレルギー疾患の自然経過を改善させる」「治療終了後の長期にわたる効果持続」などが期待できる。
ただ、定期的な通院が必要となるうえ、数百万回に1回程度の頻度で重篤な副作用が起きる可能性がある。そこで近年注目を浴びているのが、抗原エキスを舌の下の粘膜を介して投与する「舌下(ぜっか)免疫療法」だ。自宅での投与が可能で、重篤な副作用の頻度も皮下注射に比べて少ないという。
今回、同社は液体ではなく固体(舌下錠)の同社製品「アシテア」を用いた大規模な臨床試験(治験)を国内で実施。岡本教授は、舌下錠を用いて、ダニ抗原によるアレルギー性鼻炎へのアレルゲン免疫療法の治験を行うのは、世界でも珍しいと力を込める。
舌下免疫療法の効果
舌下錠の服用法は「薬を舌の下に入れる」⇒「薬が完全に溶けるまでそのままにし、唾液を飲み込む」⇒「服用後5分間はうがいや飲食を控える」という、誰にでもできる簡単さだ。
では、実際に錠剤ではどれほどの効果が得られるのだろうか。12~64歳のダニ抗原による通年性アレルギー性鼻炎患者約1,000人を対象に、同社は試験を実施した。アシテアは薬の効果に応じて「100単位」と「300単位」の2種類があり、同試験では参加者を、アシテアを投与する「300単位群」「500単位群」および「プラセボ群」の3つに無作為に分類。52週間にわたり、1日1回、朝食前に参加者に舌下投与してもらった。
その結果、鼻の症状を表す「平均調整鼻症状スコア」は投与2カ月後(投与8~10週後)より300単位群(n=315)のプラセボ群(n=316)に対する有意差が認められ、投与1年後(投与44週~52週後)まで継続して有意差が確認された。
「44~52週の最後の8週間は、平均調整鼻症状スコアで見ると1.1ぐらい、実際には20%ぐらいの改善効果が認められました。個々の眼鼻症状で見ても、鼻水や鼻づまりなどにおいてアシテア群の方がプラセボ群よりも有意に低いという結果になりました」。
「抗ヒスタミン薬」や「副腎皮質ステロイド薬」を期間中に用いた程度を表す「平均レスキュー薬スコア」も、アシテアを投与した群とプラセボ群で有意差が出ていた。また、投与1年後に「軽度以上の改善」を感じた参加者の割合も、アシテア投与群で79.7%、プラセボ群で64.5%と15%ほどの開きがあった。そのほか、海外での試験でもアシテアの効果を証明する結果が得られていた。
自分による"治療"を継続できるかがカギ
舌下錠によるアレルゲン免疫療法は一定の効果が見込まれるが、デメリットもあると岡本教授は話す。それは「治療の脱落率」にある。
「ヨーロッパのほうのデータを見ると、治療の脱落率が高いです。その背景として、治療期間が長い点があります。連日投与が必要な治療は最低2年、できれば3年以上が推奨されています。それに、効果の少ない患者さんもいます。効果が出るか出ないかは、患者さんの背景をみてもはっきりしたものがわかっていません」。
また、副作用が出る可能性もわずかながらある。基本は自分で行うが、初回投与は医師の前で行い、約30分は様子を見てもらうといった制約もある。
それでも、薬物治療による対症療法とは異なり、アレルゲン免疫療法は問題を根本から解決する可能性を秘めている。数年は毎日、アレルギー性鼻炎と真剣に向き合う必要があるが、厄介な症状を改善させるための選択肢の一つに入れてみてもいいのではないだろうか。