子育て中の夫婦にとって、大きな負担の1つとなっているであろう「家事」。特に共働きともなると、いくつでも猫の手が欲しいという状況が生まれているのではないだろうか。そんな状況を打開してくれるかもしれないのが政府が進めている「家事代行サービスへの外国人労働者の受け入れ」だ。
しかし、具体的な事業の内容や私たちにもたらされる恩恵はまだまだ未知数。行政はどんな効果を期待して、事業を進めているのか。サービスの提供が行われる神奈川県と大阪府の担当者に話を聞いた。
外国人による家事代行が神奈川・大阪で解禁
同事業は、日本の家事労働者として、外国人に在留資格を認めるというもの。外国人による家事サービスの提供は、政府から国家戦略特区に指定された神奈川県と大阪府限定で実施される。今年9月には、雇用形態や報酬などの具体的な受け入れ内容を示す指針も発表。「外国人の活用はフルタイムの直接雇用」「日本人と同等以上の報酬を支払う」など、外国人の人権に配慮した文言が盛り込まれている。
今後、政府や両府県による手続きが進めば、家事代行サービスの実施を希望する民間事業者の選定が行われ、許可が出次第、外国人労働者の受け入れが始まるという。
外国人家事労働者に何を期待?
そもそもどうしてこの事業の参加に両府県が手をあげたのか。聞いてみると、それぞれ異なる背景が見えてきた。
神奈川県の担当者は「超高齢社会が進み、働き手が不足していく。海外の人材を活用して、女性の社会進出を促したい」と回答した。県では高度成長期に転入してきた世代の高齢化が進行し、全国を上回るスピードで超高齢社会へ移行すると予想。現時点では23.2%(2014年現在)となっている高齢化率が2025年には26%程度に達すると見込んでいて、労働力不足の解決策の1つとして事業に取り組んでいるという。
一方、大阪府では「家事の面から家庭の負担を軽減することで、すべての人が能力を発揮でき、働き方を広げていけるようにしたい」と、その理由を述べた。女性に限らず、男性も、リタイアした高齢者も、社会で能力を発揮するためのアプローチの1つと位置づけているようだ。
サービス開始の時期は未定、しかし「ニーズはある」
それぞれに期待を持って進めている新事業。しかし民間事業者の募集をかける前に必要な行政手続きの見通しが立たないため、両府県とも、外国人受け入れの開始時期は未定だという。また実際のサービス内容や開始時期は「家事代行を行う民間事業者によって異なる」としている。
神奈川県の担当者は「年内は難しいのではないか。年明け以降、始まるとしても新年度の4月からという可能性が考えられる」と回答。サービスの提供地域は「民間主導になってしまう」というものの、横浜市などの中心市街地に限らず、全県に広げたいとしている。 そんな中でも、事業内容の説明を求める申し出は数社から寄せられている。「給与や雇用形態など、条件のハードルが高い」という意見がある一方、「サービスの依頼を断ることもあるほど人手不足」という声もあるそうで、将来を見据えて参入を考えている事業者は少なくないようだ。
大阪府では十数社から「サービスを担う人材探しが難しい」「事業自体に興味がある」などの意見が寄せられた。中には、これまで家事代行サービスを行ってこなかった事業者からも問い合わせがあるという。サービスの提供地域については、現時点で大阪市のみを予定しているが、今後、他の地域で要望があれば範囲を広げていく予定だ。
経済産業省が設置した家事支援サービス推進協議会の調査によれば、家事支援サービスの既存利用者は3%(2014年6月)にとどまっている。一方で、行政に届いた民間事業者の意見からも需要の高まりは感じられ、企業の参入で競争が進めばさらに利用しやすくなるだろう。神奈川県と大阪府で取り組みがうまくいけば、全国への展開も検討されるという同事業。今後の動向が注目される。