最初の配属の運が大きい

――女性の管理職はどうでしたか?

最近は、女性の活躍が推進されているので、増えています。ただ今までは女性の方が出世が遅い傾向がありました。40代くらいで課長になる女性は、子どもがいない人が多かったですね。私が辞めるときに、「私たちは今更辞められないからうらやましいよ」って言われました。実際、営業現場などの管理職は、社員のトラブルを緩和したり、クレームを処理したり、管理職にしかできないチェックの業務がたくさんがあったりで、一番しんどいんですね。だから、女性でも時短勤務をすることができない。こういうところでは家庭との両立は難しいんです。

――女性の登用はできても、それは旧来型のモーレツな働き方にしかならないと

そうですね。でも、一方では、管理・企画系の仕事の女性の時短勤務は進んでるんです。

――時短勤務しやすい部署に行ける人とそうでない人を分かつのはどういうところなんでしょうか

やっぱり、最初の運が大きいですね。最初の配属で営業ではない部署だと営業現場に出ることなくそのままいることが多いのかなと感じていました。でも、営業現場などで働いていても、早めに異動願いを出してアピールしてうまくいっている人もいます。

――どういう人が異動に成功していますか?

勇気がある人ではないかなと思います。みんな良い部署に異動したいと思っているけど、今自分が抜けたら今いるグループの体制が厳しくなるってことはわかっているので、その中で抜け駆けしたと思われても大丈夫な強い気持ちがないとまずはダメだと思います。あと、なぜそこに行きたいかという人事部も納得するような明確な理由が必要ですし、仕事の成果が認められないといけないし。それに、不満のある部署でも、成果を出している人じゃないと異動しにくいですし。

――不満があって異動願いをするのに、その不満が仕事の成果に悪く出ていてはいけないということですね

今のところが嫌だからというだけだと、良いところには異動できません。ただ、時短勤務の体制が整っている部署に異動できると、気持ち的にも楽だろうなと傍から見て思っていました。

会社がどんどん変わっていく可能性はある

――Gさんは、時短勤務もしやすい、比較的、仕事のやりやすい部署にいたんですよね。でも、転職を考えたのはなぜですか?

そうですね。時短勤務の女性が集まってくるのは、やっぱり、きっちり9時~5時で仕事が終わる業務内容の部署になります。でも、時短希望の人ばかりではできない仕事もあるから、残業できる女性が、毎日夜遅くまで一人で残務の処理をしているのを見たらせつなくて。

もちろん、それは時短勤務の人が悪いわけでもないので、そこに対して何か思ったり、ギスギスしたりすることもなかったんです。一人ではよくないだろうということで、会社もさすがに残業もできる社員を増やしましたし、バランスはよくなりました。それに、あと1~2年も経てば、子どもを産んで時短で働きながら責任ある仕事を持つ人が増えて、どんどん変わっていくだろうなという気はしました。

でも私は、もしかしたらこのままこの会社で独身のままで働いていく可能性もあるかもしれないとなると、単身の女性にとって、さほど働きやすい会社ではないなと思ったんです。

――それは具体的にはどういうことがあるんでしょう

独身だと時短勤務の必要はない代わりに、ひとりで生活をやりくりするための給料はほしいですよね。でも女性の場合、どうしても事務系の仕事が多くて、給料も上がりにくいんです。事務系はコストカットが期待されているから、残業をするにも、報告がいりますし。それに、管理職になるにも、事務系で業績を上げて認めてもらうのにはなかなか時間がかかります。もちろんその仕事に向いている同世代の人もいて、責任の重い仕事を担当していきいきと働いている人もいました。でも、私は何年経ってもなかなか成果をあげられず異動の希望も言えないし、先が見えなくて転職したという感じですね。

――今は新しい仕事についたそうですが、前の仕事で得られたことは?

前の会社は、会社のイメージを重んじていたので、相当高いレベルの社会人としてのマナーを一から叩き込まれたことはよかったです。あと、金融機関なので注意深く仕事を進めることの大切さなど基本を徹底的に叩き込まれたのもよかったです。新しい会社は、以前よりも小さい会社だから、潰れるんじゃないかという不安もなきにしもあらずなんですが、給料は3割ほど上がりました。それは、前の仕事がどんだけ低かったかということなんですけどね。

前は裏方仕事だったのでほぼ社内の人たちだけと仕事をしていたんですが、今はさまざまな会社の人にたくさん接するようになり、見えていた世界が変わりました。世の中ってこんなに面白かったのかって、楽しくて仕方ないです。今の業務内容を前の職場の人に話すと「前とあんまり変わらないじゃん!」とも言われますが、外の世界に出てのびのびと仕事ができるこの会社の規模や風土が自分に合っているんだと思います。今の会社には憧れている女性の先輩がいて、ああいう先輩のような仕事をしたいから頑張ろうって思っています。

まとめ

女性に働きやすい会社と一言で言っても、女性の人生設計も結婚して子供を産んで……というひとつの型にははめられなくなった今、その働きやすさの基準はそれぞれです。企業の側も、なんとか努力している様子も伝わってきますが、今回の取材を終えてみて、今はまだ過渡期であり、独身女性やシングルマザーなど、多様な働きやすさを実現するまでには、まだ時間がかかるのかなと思えました。


西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トークラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。