多摩動物公園(東京都日野市)はこのほど、同園公式Webページにて、「ムフロン」を紹介する投稿を行った。

換毛中の「ムフロン」。体をこすりつけている

「ムフロン」の毛で、「本物そっくりなムフロン」を作成

「ムフロン」は、家畜であるヒツジの先祖の一種と考えられており、野生のヒツジの仲間ではもっとも小型の種。日本では1967年に同園が初めて飼育を始めた。

そんなヒツジと「ムフロン」の毛を比べてみると、ヒツジの毛は細く縮れて柔らかいのに対して、ムフロンの毛は堅く、短い直毛の間にほんの少しだけ縮れた毛が混じっている。毛の質だけを見るとヒツジとムフロンでは似ても似つかぬもののように思えるが、いったいなぜ、このような硬い毛のムフロンから羊毛を得るようになったのか。

さとうはるな氏作の「ムフロン」の毛で作ったフェルト細工のムフロン

そのヒントは、春から夏にかけての換毛の中で見られた。「ムフロン」の換毛は、4月から8月上旬までの数カ月にかけて、しだいに毛並みが乱れ、柵や木などに体を擦りつけるような行動とともに見られる。数週間ですっかり見ちがえるように抜ける個体もいるが、妊娠・出産をした個体や老齢の個体は換毛が少し遅く、抜け始める部位も個体により少し違うようだった。

換毛中に抜けた毛は他の動物と異なり、脂っこい毛束が絡み合って抜けるため、放飼場内のいたるところに毛玉のようになって落ちている。手に取ってみると少しべたつくほどに脂っこく、細く縮れた毛が硬い直毛と絡まりあっている。

「ムフロン」などのヒツジの原種の毛は、換毛により抜け落ちた硬い毛を拾い集め、毛と毛を絡ませたフェルトのようにして使用していた。その後、さらに柔らかな縮れた毛を多く得られるように改良が進み、おなじみのヒツジの姿になるうちに、加工方法もフェルトだけではなく糸をつむいだ毛糸製品へと移り変わっていったと考えられるという。

「ムフロン」の換毛が落ち着いてきたころ、このヒツジの原種の毛を拾って原始的な羊毛加工方法と似たフェルト細工で何か作れないかと考え、羊毛フェルト作家のさとうはるな氏に「本物の毛で本物そっくりなムフロン」の作成を依頼。同園では、近日中にムフロン舎で展示する予定となる。