皆さん、「がん」というとどのようなイメージをお持ちですか。昔に比べて、治るがんも増えてきました。しかし厚生労働省の統計によると、1981年から死亡原因第1位は悪性新生物、すなわち「がん」なのです。次第にその割合は増加し、現在では総死亡者数の約3割を占めるほどになっています。
女性に多いがん第1位は「乳がん」
厚生労働省の統計(2011年)では、女性のがん罹(り)患率(かかった割合)の第1位は「乳がん」(20.4%)でした。続いて「大腸がん」(14.9%)、「胃がん」(11.8%)、「肺がん」(10.3%)、「子宮がん」(7.5%)と続きます。第10位に「甲状腺がん」(2.9%)が入るのも、男性と大きく違うところです。
第1位の乳がんは、世界規模の啓発キャンペーンであるピンクリボン運動の普及により、認知度も高いのではないでしょうか。死亡率は全体からみると第5位なのですが、30歳から64歳までの女性の死亡率では第1位に。罹患数は、数年前は20数人に1人といわれていましたが、最近では12人に1人といわれるほど増えてきています。
乳がんの主なリスク因子には、飲酒習慣や喫煙、ホルモン治療、肥満などがあげられます。いずれにしても、早期発見と早期治療が第一です。視触診だけの検診では見つからないこともあるので、若い方は超音波検診、40歳以上の方はマンモグラフィー検査を組み合わせることをお勧めします。
子宮・卵巣は女性特有の臓器
子宮がんには、子宮頸(けい)がんと子宮体がんがあります。子宮頸がんは子宮の入り口にできるがんで、以前に比べて若年層の罹患数も増えてきました。がんの原因は「ヒトパピローマウイルス(HPV)」の感染で、主な感染経路は性交渉であることがわかっています。
HPVの中でもハイリスク型にあたるのが、16型と18型。これらは持続感染をすることによってがん化しやすいといわれるタイプですが、子宮頸がん予防ワクチンの接種で感染を防ぐことができます。ただし、他にもがんになるウイルスはあるので、ワクチンの接種をしても検診は必要です。
一方、子宮体がんは子宮内膜の部分に多く発生します。閉経前では月経ごとに内膜がはく離するため、少ないといわれます。それに対し、40代後半~60代では罹患する方が多いので注意が必要です。閉経前後で不正出血がある場合には、産婦人科の受診をお勧めします。
卵巣がんは初期には症状がなく、腹痛や腹部膨満感などの症状があるときには進行していることが多いがんです。初期のものは超音波検診で発見されますので、子宮がん検診と一緒に検査することをお勧めします。また、卵巣がんの検診として腫瘍マーカーを検査することもありますが、あくまでも補助的なものですので、正常値でもがんの可能性はあります。
なお、常染色体優性遺伝による「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」というものもあります。最近では、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝子検査の結果を受けて、予防的に乳房切除(のちに乳房再建)と卵巣・卵管の摘出をしたというニュースが話題になりました。ただし現在の日本では、そのような手術は一般的な予防法ではありません。遺伝性のものは確率的には低いのですが、血縁者で若くして乳がんや卵巣がんになった方がいた場合には、積極的に検診を受けた方がよいでしょう。
放射線被ばくもリスク要因になる「甲状腺がん」
甲状腺という臓器はご存じでしょうか。場所はのど元にあって、蝶(ちょう)が羽を広げたような形の臓器です。正常の場合にはよくわかりませんが、腫れてくるとわかりやすい部分でもあります。
甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、ヨウ素(ヨード)を材料に作られ、体温の調節、心臓や胃腸の働き、精神活動などに関わっています。特に成長期には甲状腺ホルモンの合成が活発で、放射線被ばくへの感受性が高いことも知られています。
食物から十分なヨウ素を摂取できていればよいのですが、不足した食生活をしていると、ヨウ素の吸収が高まります。この状態で、原発事故などで多量に放出された放射性ヨウ素が体内に入ると甲状腺に蓄積します。1986年にソビエト連邦(現ウクライナ)で起きたチェルノブイリの原発事故では、大量被ばくを受けた青少年に甲状腺がんが増加しました。
一方、ヨウ素は海藻などに多く含まれますが、過剰に摂取しても欠乏気味でもがんになりやすいとの報告があります。
甲状腺にできる腫瘍は、全体が腫大(しゅだい)するものと、部分的にしこりができるものとがあります。甲状腺がんの場合は、進行が遅くて治りやすい傾向にあり、女性の罹患数が男性の5倍ほど多いのが特徴です。30~40代という比較的若い年代にがんができやすいといわれるので、のど元にしこりを感じたら病院を受診しましょう。
男性に多い「大腸がん」「肺がん」
大腸がんは、女性よりも男性の罹患数が2倍ほど多いがんです。症状としては血便が最も多く、ほかに便秘や下痢、腹部膨満感、腹痛なども見られます。検診で便潜血(便の中の血液を調べる検査)をすることで早期発見ができます。
なお大腸がんでは、家族歴がリスク要因になります。特に、家族性大腸腺腫症と遺伝性非ポリポーシス性大腸がんの家系は、明らかな大腸がんリスク要因とされています。また、食生活の欧米化によって増加したともいわれ、飲酒や加工肉(ベーコン、ハム、ソーセージなど)はリスクの可能性があるようです。
同様に女性より男性に多いがんとして知られるのが、肺がん。症状としては、咳(せき)や血痰(けったん)、胸痛、息切れなどが現れます。一方で症状が全く出ない場合もあり、検診で行うX線検査やCT検査で発見される方もいます。リスク因子としては喫煙が最も重要です。女性の喫煙率は以前と比較して増加しているといわれるため、女性の肺がんも将来的には増加するかもしれません。
いずれのがんも、早期発見・早期治療をすることで治る可能性が高まります。症状が出てからでは進行していることも多く、何も症状が出ていないうちに検診を受けることが重要です。恐らく女性の中には、職場の検診が充実していないために検診から遠ざかっている方や、専業主婦やフリーランスなどで検診を受ける機会が少ない方もいるでしょう。自分だけでなく、家族のためにも検診を受けることをお勧めします。
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記事監修: 疋田裕美(ひきだ・ひろみ)
日本産婦人科学会認定医、母体保護法指定医
九州大学医学部卒業後、九州大学付属病院、板橋中央総合病院での勤務を経て水口病院産婦人科に勤務。150名以上の女性医師(医科・歯科)が参加するEn女医会の会長も務め、ボランティア活動などを通じて、女性として医師としての社会貢献を目指した活動に従事する。