暑さのピークも過ぎ、ハイキングの季節・秋も目の前! 泊まりがけで登山をするほどの時間も体力もないけれど、都内から日帰り登山をしてみたいという人もいるだろう。そんな人たちに人気の高尾山(東京都八王子市、標高599m)は、新宿から電車で50分程度で行けることもあって、いつ行っても大にぎわいだ。一方、「もっとのんびり、もうちょっとしっかり山歩き」が希望なら、大山(神奈川県伊勢原市・秦野市・厚木市、標高1,252m)という選択もある。
登山の狙い目は9月30日まで
大山は丹沢山などの山々とともに丹沢大山国定公園に属しており、古代から国を護る神の山のとして、また、海上からは羅針盤の役割を担う海洋の守り神として崇められてきた。加えて、大山は「雨降山」とも呼ばれているのだが、それは山頂に年中水のしたっている霊木があるからだとか。
そんな大山へのアクセスは、小田急線「新宿駅」から1本で小田急線「伊勢原駅」へ、伊勢原駅前から登山口までは神奈川中央交通のバスに乗るという、新宿から約1時間30分の行程となる。公共交通機関を利用する人は、小田急線全駅で購入できるお得な「丹波・大山フリーパス」を利用するといいだろう。
「Aキップ」には小田急・神奈中バス・ケーブルカーの乗車券が、「Bキップ」には小田急・神奈中バスの乗車券が含まれている。フリーパスは2日間有効だが各乗りものには条件があるため、詳細はホームページを参照していただきたい。
そして、「静かにマイペースで登山を楽しみたい」という人は、実は今が狙い目かもしれない。大山には山の麓と中腹を結ぶケーブルカーが運行されているのだが、9月30日まで大規模設備更新工事により休止している。山の中腹まで自力で登らなければいけないが、通常よりも人の少ない登山をたっぷり楽しめるだろう。
バスの終点「大山ケーブル駅」から山頂の「阿夫利神社(本社)」へ登った場合、途中道分かれする「女坂」「男坂」のどちらを選ぶかで時間が多少変わるが、大体往復4時間30分の道のりとなる。道中には関東三大不動のひとつにも数えられている「雨降山 大山寺」や下社と本社に分かれた阿夫利神社、そして、土産屋が連なった参道や休憩ができる茶屋もある。ぜひ、寄り道をしながら登山を楽しんでいただきたい。
基本的に道は整備されているため、登山初心者でも比較的挑戦しやすいコースではあるものの、足場は必ずしもよくはなく急な段差も多い。また、過去には遭難者も出ている。登山靴や急な天候の変化にも対応できる服装や雨具、補給食や水分など、登山で必要とされる準備はしっかりしておきたい。加えて、大山など丹沢の山々にはヤマビルが発生するため、ヤマビル対策も必要だ。ヒルよけスプレーのほか、靴や靴下などヒルが入りこみそうな隙間に塩をこまめにかけて対策をしよう。
女坂の七不思議に参道に待ち構える石像たち
さて、いよいよ出発だ。伊勢原駅からバスに揺られてバス停・大山ケーブル駅に到着すると、まずは旅館や土産屋が両脇に連なった「こま参道」が現れる。店先には、大山で育まれた天然水で作られた大山豆腐や木肌の温もりを感じる大山こまなど大山ならではの品々が並んでおり、眺めているだけでも楽しくなってくる。ただ、この参道だけでも階段は400段程度あるのでゆっくりマイペースで進もう。
ケーブルカー乗り場である「大山ケーブル(山麓駅)」を横目に見つつ先に進むと、道は女坂と男坂に分かれる。名前からイメージされるように、女坂の方がやや道の勾配は緩やかになっている。そして、道中には「女坂の七不思議」が記された立て看板もあるので、チェックしながら登ってみるのもいいだろう。
例えば「子育て地蔵」。女坂の七不思議の立て看板によると、最初は普通のお地蔵さんの顔だったのに、いつの間にか童の顔になっていたという。そんなお地蔵さんにお祈りすると、子どもがすくすく丈夫に育つとのこと。なんとも不思議で愛らしいお地蔵さんだ。
そんな七不思議を眺めながら登っていると、石像が左右にずらりと並ぶ階段が飛び込んでくる。階段の勾配もさることながら、一つひとつ顔も味わいも異なる石像のインパクトがスゴい。よく見ると憤怒相の石像が多いのだが、この階段の先には本尊に「不動明王像」を掲げる「雨降山 大山寺」があるのだ。
大山は成田と高幡とともに関東三大不動のひとつされており、「大山のお不動さん」と親しみを込めて呼ばれている。大山寺には小皿を崖下に落として厄を祓う「土器投げ」もあるので、厄年の人などはぜひ絶景に向かって厄払いを。
茶屋を越え、下社で大山獅子にも一礼
登山路には枕木や石畳が敷かれており基本的に整備はされているが、場所によっては段差が大きく、また、岩肌がゴツゴツしているところもある。特に雨の後などは危険なので、注意しながら進もう。
大山寺から歩くこと約20分、茶屋が目に入ればそこが標高約700mの中腹だ。茶屋までの道中に女坂と男坂は合流するので、二手に分かれて登る場合、茶屋で待ち合わせをするといいだろう。また、ケーブルカーの終点駅「阿夫利神社(山上駅)」も、この付近となる。
茶屋の先の階段を上ると、阿夫利神社(下社)が現れる。拝殿など比較的新しいように見えるのだが、阿夫利神社そのものは今から約2,200年より前の人皇第十代崇神天皇の代に創建されたと伝えられている。境内には富士山の岩を用いて復興された五頭からなる大山獅子や、下社拝殿の地下から湧き出る御神水などもあるので、境内をめぐる時間も登山計画の中に少し入れていただければと思う。また、下社からも見晴らしはよく、空気が澄んだに日は相模湾に浮かぶ江ノ島や三浦半島などを一望できる。
20丁目の"住人"は富士山!?
とは言え、まだここは山の中腹程度。先を急ごう。境内から登山路に続く道の前には、登山をするために身を清めるための祓所がある。初穂料はひとり100円なので100円玉のご用意を。また、この先から本社までの約90分の道中には特に売店やトイレなどはないので、水分などが不足していたら茶屋で補充しておこう。
祓所の先の急な階段を上ると、その先には阿夫利神社(下社)までの道中同様、枕木や石畳が敷かれた道が続く。周りの風景があまり変わらないように感じるため、「山頂まではあとどのくらいなんだろう」と思うかもしれない。そんな時は道の端にちょこんとある石柱を頼りにしよう。
石柱には番地が記されている。下社で1丁目、夫婦杉があるところで8丁目、ぼたん岩があるところで14丁目、天狗の鼻突き岩があるところで15丁目、空気が澄んでいれば富士山を望める富士見台があるところで20丁目、本社に続く鳥居があるところで27丁目、そして、山頂の本社で28丁目となる。道中には休憩ができるベンチが設けられているので、こまめに休憩しながら一歩ずつ進もう。途中、「ヤビツ峠」との分岐点があるが、目指すは「大山」だ。
山頂で待っていたのは極上のキュウリ
「阿夫利神社本社」と記された歴史を感じる石柱が目に入れば、そこが山頂だ。山頂にはカレーライス(800円)やカップ麺(300円)、缶ビール(500円)、スポーツドリンク(300円)などを備えた茶屋がある。また、夏季限定かもしれないが、売店には水で冷やされたキュウリ(1本200円)が味噌を添えて売られていた。登山で疲れた身体が欲するものをよく分かっている。汗で失われた水分や塩分、そして、素朴で間違いないおいしさはきっと記憶に残るものになるだろう。なお、山頂にはトイレも設置されている。
山頂は比較的広く所々にベンチが設けられているので、方向によって異なる見晴らしを楽しんでみるといいだろう。下山の前に、奥の院で下山の安全のお祈りもお忘れなく。来た道を戻るほか、見晴台から二重滝を経由して下社に下るコースもあるが、2016年2月上旬までは登山道の補修工事のため通行止めになっている。ただ、工事中でも通行できる期間はあるので、登山路については大山観光電鉄のホームページを参照していただきたい。
帰りの予定に鶴巻温泉も
今回は通行止めの期間だったため、もと来た道を下ることにした。下社までは約60分、そこからバス停の麓までは約40分歩くことになる。途中には手をついてやっと降りられる石段もあり、「こんな段差をよく登ったもんだ」と思うことも。登山用のスティックがあれば心強いだろう。なお、伊勢原駅と大山ケーブル駅間の神奈中バスは基本的に20分おきに運行しているが、下山してすぐ帰路の前にちょっと参道で大山土産を物色する時間も計算しておこう。
また、帰りにちょっと時間があれば、小田急線で小田原駅方面へ一駅先の「鶴巻温泉駅」で下車し、2分歩いたところにある日帰り入浴施設「秦野市鶴巻温泉 弘法の里湯」に寄り道を。きっと翌日の筋肉痛がここで緩和されるはずだ。
大山の紅葉は11月中旬~下旬で、2014年には11月15日~24日までライトアップを実施していた。2015年の予定に関してはまだ発表されていないが、のんびり登山を楽しむなら9月30日まで、紅葉を味わいたいなら11月中旬~下旬を狙うといいだろう。
初心者も挑戦できる登山ではあるものの、決して誰もが簡単に登れる山ではない。そして、都内からも日帰りで行けて旅行気分もたっぷり味わえる。そんな大山は、いろんな意味で"ちょうどいい登山"のように感じられた。もちろん、翌日の筋肉痛は必須だ。この秋、しっかり登山の準備をして、大山登頂に挑戦してみてはいかがだろうか。