鼻水がのどに流れ込む「後鼻漏」

「後鼻漏」ってどんな症状? 咳込んで眠れないという症状にもつながる

風邪をひいていないのに夜になると咳(せき)が出て、朝になると痰(たん)がのどに絡む症状に悩まされている人はいませんか? この症状は「後鼻漏(こうびろう)」といい、鼻水がのどに流れ込むことが原因で起こります。今回は、子どもから高齢者まで多くの人を悩ませる後鼻漏の原因と治療法についてお話しします。

後鼻漏の代表的な症状は「咳きこんで眠れない」

風邪をひいていないのに鼻水が止まらないときは、まず鼻の病気を想像しますよね。でも大量に発生した鼻水は、鼻の穴から出てこないこともあるのです。鼻とのどはつながっているので、鼻水は前方にある鼻の穴から出る場合と、後方にあるのどに流れ込む場合があります。後者を後鼻漏といいます。

次のようなときには後鼻漏の疑いがあります。

・夜、咳きこんで眠れない
・朝になると痰がたまっている
・咳払いをよくする
・痰が絡みやすい、痰や唾を吐きだすことがある
・のどに違和感がある
・声枯れがある
・口の中がネバつく、口臭がする
・食事がおいしく感じられない

特に「夜、咳きこんで眠れない」「朝になると痰がたまっている」という項目には、当てはまる人も多いはず。あおむけになって寝ている間に鼻水はのどにたまり、その苦しさから咳が出たり、朝になって痰を吐きだしたりしているのです。

後鼻漏に悩む人は成人の約3割

現代では、成人の約3割に後鼻漏が起きているといわれています。鼻水が出ないので鼻の症状とは思わない人も多いのですが、後鼻漏やその原因となる鼻の病気をきちんと治療しないと、日常生活に支障をきたすことがあります。

まず夜間の睡眠の量と質が下がるので、日中の仕事の効率にも影響を及ぼす可能性があるでしょう。また、のどにたまった痰は吐きだすか飲み込むことしかできず、症状が悪化すると気分が悪くなったり、食事が楽しめなくなったりする人もいます。このように生活の質(quality of life)にも関わってくる症状なので、早めの治療をお勧めします。

子どもは「睡眠障害」、高齢者は「嚥下(えんげ)性肺炎」に注意

後鼻漏が引き起こす子どもの睡眠障害も見過ごせません。夜間に咳きこんで眠れなかったり、眠りが浅かったりする子どもは、日中の学校生活に支障が出る場合があります。また、深い睡眠時に成長ホルモンは分泌されるので、睡眠不足になると体の発達にも影響を与えるといわれています。

子どもの後鼻漏も、咳によって眠れず睡眠障害につながる可能性がある

ただし、子どもは鼻水が出やすい傾向にあるので、あまり神経質になるのも考えもの。耳鼻咽喉科にお子さんを連れてきたお母さんには、「夜、ちゃんと眠れる程度に鼻を治療しましょう」という話をよくします。

一方で高齢者の後鼻漏は、嚥下性肺炎を引き起こし寝たきりになるリスクが高まるといわれているので深刻です。実際に、肺炎で入院した60歳以上の患者を対象に調査したところ、夜間の睡眠中に唾液の気管への流れ込みがあった人は7割以上にのぼったとの報告もあります。

その原因として、高齢になると、食べ物を飲み下すための反応(嚥下反射)や、咳で異物を外に出そうとする反応(咳反射)が弱まることがあげられます。それに伴って食べ物や、細菌を含む唾液などの分泌物が誤って喉頭や気管に入ってしまうこと(誤嚥)が多くなるのです。

また、後鼻漏ではなくても、高齢者は日常のさまざまな場面で異物をのどに詰まらせる危険性があるので要注意。病院でのどのレントゲンを撮ると、入れ歯や骨付きフライドチキンが丸ごとうつる人もいるほど。周りの家族も、高齢者の嚥下障害には十分注意してあげましょう。

後鼻漏の症状が出る鼻の病気と治療法

上記の後鼻漏のチェック項目に当てはまる人や、薬を飲んでいるのに咳の症状がよくならないという人は、鼻の病気にかかっている可能性を考えてみましょう。後鼻漏の症状を伴う鼻の病気には、いわゆる「蓄膿(ちくのう)症」といわれる副鼻腔(びくう)炎、舌の付け根部分(咽頭)が炎症を起こす咽頭炎、アレルギー性鼻炎などがあげられます。

耳鼻咽喉科では、まず、CTスキャンやファイバースコープを使って原因となる病気を調べます。続いて原因と症状の重症度によって、いくつかの治療法を検討していきます。

鼻の中をキレイにする治療法には、鼻洗浄や、薬液を霧状にして鼻や口から吸入する「ネブライザー療法」などがあります。また、抗生物質や抗炎症剤、抗アレルギー剤といった内服薬や、うがい薬を処方します。これらの治療法で症状がよくならない場合は、内視鏡手術を行うことが多いです。

鼻の症状は慢性化してしまうと、あらゆる治療を施しても完治が難しいことがあります。後鼻漏の疑いがある人は、1日も早く耳鼻咽喉科で診察を受けるようにしましょう。

※画像と本文は関係ありません

記事監修: 松根彰志(まつね・しょうじ)


医学博士
1984年 鹿児島大学医学部医学科卒業
1988年 鹿児島大学大学院医学研究科修了
1988年~1990年 ピッツバーグ大学(アメリカ合衆国ペンシルバニア州)留学


NPO 花粉症・鼻副鼻腔炎治療推進会 副理事長、事務局長
同団体は、花粉症・アレルギー性鼻炎や蓄膿症・副鼻腔炎に正しく対処するための情報発信・活動を推進しています。


日本医科大学医学部 耳鼻咽喉科学 教授
日本医科大学武蔵小杉病院 耳鼻咽喉科部長、病院研究委員会委員長
日本耳鼻咽喉科学会、日本アレルギー学会、日本鼻科学会、日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 各学会の代議員
神奈川気道炎症病態研究会 代表幹事 など

<お知らせ>
日本医科大学武蔵小杉病院 耳鼻咽喉科では、6月よりスギ花粉の舌下免役治療(新規分)を再開しました。