スローカロリー研究会はこのほど、「日本のスポーツ栄養界が注目する"スローカロリー理論"とは」と題し、糖質摂取の「質」に注目した理論を展開するセミナーを開催した。

各界の識者が「スローカロリー」について講演した

ゆっくり吸収される「スローカロリー」

「本格的な夏が来る前に、何とか少しでもダイエットしたい! 」と思っている人は少なくないのではないだろうか。「りんごダイエット」「低炭水化物ダイエット」「豆乳ダイエット」など、ダイエットを冠するものは多数あるが、健康的に体重を落とすにはやはり実際に汗をかくのが一番だろう。

ただ、「せっかく運動するならば、より効果的にしたい」という思いは多くの人に共通するところだろう。そこでポイントになるのが、近年のスポーツ栄養界で注目を浴びている「スローカロリー」だという。

慶応義塾大学 スポーツ医学研究センター教授の勝川史憲氏は、「スローカロリーと身体運動」の関係性について講和を行った。勝川氏によると、スローカロリーとは「体内でゆっくりと吸収する食べ物のエネルギー」だという。

そんなスローカロリーの代表的なものに「パラチノース」が挙げられる。パラチノースは自然界でもハチミツなどに含まれる甘味料で、いわゆる砂糖(スクロース)と同じ量で同じカロリーになる。甘みの度合いも同じなので、砂糖の変わりに使うことができるが、決定的に違うのが体内での吸収のされ方だ。砂糖は食後30分で急激に血糖値が上昇するのに対し、パラチノースは上昇が緩やかで一定の値を保つことができる。

食後高血糖はさまざまなリスクを招く

砂糖(破線)よりも、パラチノース(実線)のほうが吸収が緩やかになっているのがわかる

同じエネルギー量の糖質を摂取しても、食後の血糖値の上がり方はその食品によってさまざま。すぐに血糖値を上げてしまう食品は「食後高血糖」を招き、肥満などのリスクを高めてしまう。

一方、体内でゆっくりと吸収される食材を選ぶことで「太りにくい体づくり」になるという。この血糖値の上がりやすさを示す指標を「GI値」といい、血糖値が上がりにくい食品ほど「低GI」になる。

高GI食摂取群(黒帯)に比べ、低GI食摂取群は体脂肪率が下がっている

ある研究では、高GIと低GIの食事をそれぞれ必要なエネルギー量で8週間提供した結果、低GIの食事を摂取していた群の体脂肪が減少したという結果も示された。最近は「ゼロカロリー食品」や「低カロリー食品」などがたくさん出ている。だが、「ポイントになるのはカロリーの量ではなく、そのカロリーがどのように吸収されるのか、質を見ることが大切」と勝川氏は話した。

脂肪燃焼には糖質が必要

神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部栄養学科教授の鈴木志保子氏は、スポーツ栄養の観点からスローカロリーをどのように活用すべきかを解説した。

鈴木氏は体内の糖質の使い方を、「ロウソクの芯が糖質で、ロウが脂肪。芯の太さや長さによって火の大きさが変わって脂肪を燃焼する量も変わります」と、ロウソクに例えて説明した。最近は糖質制限によるダイエットが人気だが、ロウソクの「芯」にあたる糖質が不足すれば、脂肪の燃焼にもつながりにくい。むやみに糖質をカットするのではなく、効果的に必要量の糖質を摂取することが重要となる。

糖質と脂肪の関係をロウソクで例える

スローカロリーにアスリートが注目する理由は、体内の糖質のエネルギー貯蔵量に限りがあるためだという。運動中に糖質の供給が低下すると、運動パフォーマンスが低下してしまう。スローカロリーであればゆっくりと吸収されるため、パフォーマンス中も糖質の不足を起こしにくくなる。

また、エネルギー吸収を穏やかにしてくれるものには「食物繊維」もあり、糖質と食物繊維を同時に摂(と)ればスローカロリーとして摂取できる。ただ、食物繊維は胃腸に作用しておなかを下してしまうこともあるので、運動のタイミングで摂取することは望ましくない。その点パラチノースであれば、食物繊維なしでも急激に血糖値を上げずに糖質を効果的に摂取することが可能だというわけだ。

運動条件によって糖質の摂取量には目安がある

アスリートでなくとも、血糖値が低くなると仕事の効率が下がってしまう。食事と食事の間隔が6時間以上になるようなら、間食を有効に活用したほうがよいと鈴木氏は話す。「そこでスローカロリーを活用すれば、パフォーマンスが上がります」。具体的には、食物繊維の多い菓子やデザートを食べたり、コーヒーなどの飲み物に入れる砂糖をパラチノースに変えたりするとよいという。

栄養の摂り方で「結果」につながる

続いて、鈴木氏とフィットネスライフコーディネーターのShieca氏のトークセッションが行われた。元々Shieca氏は体形の崩れや体力低下に悩み、トレーニングを始めたという。「最初はダイエットはとにかく減らせばいいと(カロリーなど)何でもカットしたら、髪や肌もボロボロになってしまって。そこで栄養に着目するようになったんです」と当時を振り返った。

トークを繰り広げる鈴木志保子氏(左)とShieca氏

そこで、ダイエット法を見直すべく書店に向かい手に取ったのが、「栄養成分表」だったという。これには「普通の人はなかなか栄養成分表を買わない(笑)。専門家じゃないと『可食部100g』とか、よくわからないと思うのに、すごいところから入りましたね」と鈴木氏もビックリ。「もともとは文化系なので(笑)」とShieca氏は返し、現在はバランスのよい低GIの食事を、タイミングも考えて摂取しているとのこと。

Shieca氏はスポーツをしている人の中でも、「しっかりトレーニングをしても結果につながらない人」や「食のスイッチが入ってしまい食べ始めると止まらなくなってしまう人」がよく見受けられると話す。そのような人たちには自身の経験も踏まえ、食のスイッチが入ったときにこそ低GIやスローカロリーの食べ物を摂取していくよう、アドバイスしているという。

スポーツ栄養界からも注目を浴びるようになってきているスローカロリー。「運動しても結果がなかなか出ない」「ダイエットしたいけど食欲を抑えられない」という人にとって、知っておいて損はないキーワードだろう。