2016年4月より家庭向け電力小売自由化が始まります。これにより戦後から60年以上続いていた大手電力会社による専売体制が終わりを迎えることになりますが、この自由化を前に、利用者側としては何を準備すればいいのでしょうか。自由化のメリット・デメリットと合わせて見ていきましょう。

電力の小売り自由化、実はもう既に始まっている?!

実は日本ではすでに段階的に電力自由化への移行措置が取られており、2015年現在で国内の電力のうち約6割が自由化されています。2016年4月からは、新たに一般家庭を対象とする自由化が行われ、家庭ごとにどの事業者から電気を買ってもよいことになりました。

注目なのは、新電力(PPS)と呼ばれる新規参入の事業者。昨今、ガス会社や通信会社など異業種の電力業界参入が相次いでいますが、業界再編にもつながる大きな動きとなるのではないかという声も多いようです。こうした新電力の動きの一方で、東京電力、関西電力、中部電力など大手電力会社は、子会社や発電所増設による供給ネットワークの全国展開を進めており、既存の顧客を囲い込むとともに、地域の枠組みを超えた取り組みを開始しています。

ただ、新電力に切り替えたとしても、これまでと変わるのは毎月の料金の請求元だけであり、電力自体は従来通り地域の電力会社から供給されます。そのため、小売自由化により、停電が頻発したり、安定供給がされなくなったりするという心配は今のところ必要ないとされています。

個人もどこから電力を買うか選べる時代へ

さて、今回の一般家庭向け電力小売自由化のメリットとしては、各家庭に合った電力会社を選ぶことができるということが挙げられます。新電力の参入により競争が起これば、他社と差をつけるために、供給サービスが多様化するでしょう。そのため、電力を使う時間帯や使用量に応じたプラン選択も可能になるはずです。また、携帯電話会社やインターネット回線販売会社などによるサービスでは、スマートフォンの利用料金やネット回線と電力をセット販売するなど、ユニークなプランが選べることになりそうです。

気になるのは、「料金は低くなるのか、高くなるのか」という問題。これに関しては、意見が分かれるところではありますが、強調しておきたいのは、小売自由化により電力料金が低下した国は、世界的に見ても今のところないということ。自由化以前には国が電力料金を審査し、高くなりすぎないようにコントロールしていましたが、その規制がなくなれば、天候や災害、発電に必要な燃料費の高騰などが直接、料金に影響を及ぼす恐れがあります。実際、電力自由化が進んでいるヨーロッパ各国では、燃料費の高騰や再生可能エネルギーの買取コスト増大などの理由で電力料金が上昇しています。とは言っても、現在の日本における電力料金は、諸外国よりもやや高めに設定されているのです。そのため、来年の自由化後は他社との競合により経営の合理化が進み、今よりも電力料金は下がるのではないかと予想する声もなくはありません。

1998年にドイツで、2007年にフランスとイタリアでは電力を全面自由化した

比較サイトを賢く利用して、事前に情報収集を

消費者としては、安い料金の電力会社と契約して、安定供給を享受したいというもの。自由化は2016年から始まるのでまだ先と言っても、各業者のプランなどの情報は事前に仕入れておくのが安心です。早めに家庭内で相談等をするためにも、電力会社などが運営する「電力プラン比較サイト」を利用して事前の情報収集がオススメです。

たとえば、新電力の販売などを手がけるESC株式会社は、 新電力会社比較サービス「みんなの電力」を2015年4月より開始しました。同サービスは、居住地域と使用するエネルギー源などを入力すると、500以上の電力会社の中から希望にあったものが表示され、問い合わせ・比較できる仕組みになっています。

また、ケンブリッジエナジーデータラボが運営する電気料金比較サイト「エネチェンジ」では、電力事業者からの一般家庭への情報提供や、お得な電力料金プランの診断・解説などを行っています。こちらも、電力の使用状況に関する5つの質問に答えるだけでおすすめの電力会社・プランが表示されるという、簡単で使いやすい仕組みになっています。

選択肢が増えるのは嬉しいことですが、同時に、今度は自分自身で複雑化する電力プランについてしっかり勉強して、どれがおトクかを見極めなければなりません。電力会社との契約は長期契約が主流であるため、一度契約をしてしまうと切り替えが難しいという点も悩みどころです。「一部の人だけが得をする」状況を避けるために、比較サイトを利用しながら、各家庭でよく話し合うことが大切になってくるでしょう。


株式会社回遊舎

"金融"を専門とする編集・制作プロダクション。お金に関する記事を企画・取材から執筆、制作まで一手に引き受ける。マネー誌以外にも、育児雑誌や女性誌健康関連記事などのライフスタイル分野も幅広く手掛ける。近著に「貯められない人のための手取り『10分の1』貯金術」「J-REIT金メダル投資術」(株式会社秀和システム 著者酒井富士子)、「NISA120%活用術」(日本経済出版社)、「めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った世界で一番わかりやすいニッポンの論点10」(株式会社ダイヤモンド社)、「子育てで破産しないためのお金の本」(株式会社廣済堂出版)など。