――「女優」という仕事のコツをつかんだのは、いつ頃からなのでしょうか。

今もまだまだ分からないことだらけで。作品によって、自分の中にはどのような部分があるんだろうと探っていく作業でもありますから、脱ぎ捨てていく「代謝」のような感じと「積み重なっていく」感じと。新しい自分をどんどん発見していく仕事でもありますから、「完成」はない仕事なのかもしれませんね。

――それだけ作品ごとに自己を追求し、役柄に染まっていくと、自我が見えなくなることはないんですか。

作品によっては全然テイストが違って、性格も違ったりするんですが、メイクや衣装、ロケなどの撮影環境のような後押しもあって切り替えることができます。今回の作品でいうと、廣木監督の確立された組に参加させていただいて、衣装に袖を通すと咲世子の気持ちが伝わってきたり。原作では自宅が山の中だったのが、海沿いだったり。そういう違いが、最初は原作と脚本の誤差と感じましたが、自分の中で考え、徐々に納得していくことができました。

――劇中で特に印象に残ったセリフが「イメージでしょ? 実態は知らないから」。28歳の素樹(中村蒼)から「いい年の取り方をしている」と言われた45歳の咲世子が返した言葉でした。女優の言葉とも重なるような印象を受けました。

版画家はベールに包まれている職業なので、そういうことを伝えたかったのかもしれないですね。芸能人は……うーん。例えば、家族と会う時は完全に素の状態になりますが、「芸能人」はどこに行っても「芸能人」。だから、あのセリフのシーンは、自ら重ね合わせようと思って演じたところもありますね(笑)。

その言葉を言う直前、咲世子は高台まで素樹を連れてきて、「私が好きな場所!」と叫びます。開放的な空間だったからこそ、素……というかそういう人間性を出すことができたんだと思います。現場に立つと、そういう発見や感動がいくつもあります。

――モデルからスタートした芸能生活。この20年を経て、プライベートではどのような変化がありましたか。

私は、常に「今」な感じなんですよね。うーん……だから、あまり「変化」と捉えていないというか(笑)。

――結婚や転職など、自身の年齢を区切りながら人生設計をする人もいますが、黒谷さんはいかがですか。

出会う方々もそうですけど、毎回やることが違うので私の中ではないのかもしれません。撮り方が違えば、時代背景も違う。日々、飽きることはないですし、常に新しさを求められることの繰り返し。そういう意味では、作品によって勉強させてもらっているのかもしれません。

――「将来的な黒谷友香像」も特にはないと。

私自身は作品と共に成長していっていると思うんですよね。作品を観た人が「黒谷はこんな面があるのか」「こういうイメージなのか」と共有していった先にあるのが、世間一般の私のイメージ。女性にオススメの作品もあれば、アクション好きの人に向けた作品もあったり。作品と共に自分を作っていく作業だと思っているので、作品と共に自分も成長していけたらいいですよね。

――ちなみに、この20年でどのあたりからそのように思えるようになったのですか?

最近ですよ(笑)。いろんな職業や年代の人と知り合うと、人が私に対して抱いているイメージが分かりますし、逆に年下の人と接すると「若いっていいなぁ」とか(笑)。でも、きっとそういう風に思えることが幸せなんじゃないかなと。監督の世界観とか、脚本家の伝えたいこととか、いろんなものが映し出されるのが映像作品。そういうことをうまく伝えられる人になりたいです。

■プロフィール
黒谷友香
1975年12月11日生まれ。大阪府出身。O型。モデルを経て、1995年公開の『BOXER JOE』で、女優として銀幕デビュー。その後、数々の作品に起用され、近年では『極道の妻たち Neo』(13年)、『利休にたずねよ』(13年)、『イン・ザ・ヒーロー』(14年)などの映画、『保育探偵25時~花咲慎一郎は眠れない!!~』(15年)などのドラマに出演した。