ギリシャのチプラス政権がバルファキス財務相を交渉担当から事実上外したことで、ユーロ圏との合意に向けて期待が高まっている。チプラス政権は、5月初旬の合意と、同11日のユーロ圏財務相会合での正式承認(=支援金受領)を目指している。果たして目論見通り土壇場で合意できるのか。それとも、デフォルト(債務不履行)は避けられないのか。仮に最終支援金を受け取ることが出来ても、支援第2弾が6月末に終了した後、7-8月にはECB(欧州中央銀行)が保有するギリシャ国債約70億ユーロの償還が必要となる。そのため、支援第3弾は不可欠との見方もあり、デフォルトの懸念が完全になくなるわけではなさそうだ。

ギリシャは2012年2月にデフォルトを起こしている。それは支援第2弾の一環として、国債保有者との合意に基づいて債務を減免した「秩序だったデフォルト」だった。「選択的デフォルト(SD)」とも言う。債務者が資金不足に陥り、債権者との交渉や合意なく、一方的に支払いを停止する「無秩序なデフォルト」ではなかった。それでも、マーケットの混乱は避けられなかった。

ギリシャの債務危機が深刻化するにつれて、国債は売り込まれ、利回り(金利)は急騰した。3年物国債利回りは、デフォルトが懸念され始めた2011年9月に40%を超え、2012年2月末に支援第2弾が正式承認されてデフォルトが確定する直前には100%を超えていた。今年4月下旬に3年物国債利回りは一時30%まで上昇したが、足もとでは20%台前半まで低下している。デフォルトは完全には織り込まれていないと言えそうだ。

2010年のギリシャ危機発生後しばらく、ユーロは米FRBのQE(量的緩和)開始などを背景に対ドルで上昇基調だった。しかし、債務危機の深刻化に伴い、下落基調に転じた。支援の合意成立や承認が近づく場面では債務危機の終息期待からユーロが買われることもあったが、最終的にユーロが底を打ったのは、ドラギECB総裁が「ユーロを守るために何でもする」と宣言した2012年7月のことだった。

現局面では、2014年7月以降、ユーロが対ドルで大幅に下落してきた。ユーロ圏と米国の金融政策の方向性の差が一層鮮明になり、とりわけ、2014年末以降はECBのQEを材料にユーロ安が加速した。足もとで、ユーロに下げ止まり感もあるが、ギリシャのデフォルト懸念が強まれば、一時的にせよユーロが売り込まれる局面はありそうだ。ギリシャのデフォルトはもはや「サプライズ」ではない。備えは必要だ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。