『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』が、4月よりTVシリーズとして放送されている。士郎正宗氏による原作コミック、押井守監督による劇場版『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』、そして神山健治監督の『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズに続く、第四の攻殻機動隊として企画され、2013年6月から2014年11月にかけて、劇場イベント上映およびパッケージソフトが発売された作品だ。

現在放送中の『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』より

これまでの作品において、我々にとって主人公・草薙素子は超ウィザード級ハッカーであり、卓越した身体能力・戦闘力を持つ、公安9課のパーフェクトなボスだった。その若かりし頃とは……? 人は自分の想像しえないものには不安や不審を抱くものだ。

だがそれは、話が進むにつれキャラクターへの信頼につながっていった。これは間違いなく攻殻機動隊の世界であると。ビッグタイトルであるほど、単なる続編ではファンは納得しない。文字通り新しい攻殻機動隊、しかも後の時間軸につながる世界は、どのように作られていったのか。新作エピソードを含むTVシリーズの放送を前に、シリーズ構成を担当された小説家の冲方丁氏にお話を伺った。

結成前夜を描くなら、今しかない

『攻殻機動隊 ARISE』、そして2015年6月20日公開の『攻殻機動隊 新劇場版』のシリーズ構成を担当している小説家の冲方丁氏
撮影:伊藤圭

――まずはじめに『攻殻機動隊 ARISE』の企画は、いつ頃からスタートしたのでしょう。

2012年にはもう仕込んでいましたね。本当はもっとずっと前から話が動いていたのですが、コンセプトが固まりきらずに、僕が参加してからもだいぶ迷走した感じです。攻殻とはこういうものだという意識が強すぎて、どうやって新しいものを作るのかというところになかなかたどり着けなかった。最終的に、若いメンバーたちを描く――なぜ素子があのメンバーを集めて、彼らがなぜ素子について行こうと思ったのか、という物語をやることに決まったのが2012年でした。

――思い切ったコンセプトを打ち出したという印象がありました。

そうですね、もっとSFナイズした、エッジのきいたものにしていく考えもありました。例えば、原作でいうなら荒巻素子が出てくるとか、素子が人形使いと合体して複数の自己自身が拡散していくとか……それは今の情報の拡散と非常にマッチすることでもあります。でも、それらは視聴者との親和性が高いので、むしろいつでもできる。だから、今やらなくては二度とできなくなってしまうことを考え、攻殻機動隊の世界で、結成前夜を描くなら今が一番いいタイミングだという結論になりました。

(現在は)リアルとネットというものが結びついていて、テクノロジーが日常化しつつあります。かつて描かれた"いかにも"なサイバー世界ではなく、テクノロジーがだんだんと人間味を帯びていき、それが主流になりつつある世界を描く上でもいい時期です。メンバーたちを若返らせることも、やろうと思った時にやらないとできなくなってしまう。ここしかあるまいと考えました。

――士郎正宗さんはどういった部分で参加されたのですか?

例えばゼロ歳児の全身義体といった設定面でも、新規キャラクターのデザインやサイトーの海兵隊ヘッドといったビジュアル面でも入っていただいています。(脚本の中では)かなり使わせてもらいました。僕自身も踏ん切りになりますし、見せられたのなら逃げずにやろうと。

素子の生い立ちに関わる設定はみんな嫌がって描こうとしませんでしたが、そこから逃げちゃしょうがない。そういうものをやり尽くしたのなら、原作でいう『攻殻機動隊2.5』へ踏み込めますが、まだやり尽くせていないのなら、ここが勝負所だろうと思いました

社会に出て、存分に失敗する素子

――そうした設定の活かし方は冲方さんの方で決めていかれたのでしょうか?

かなりこちらでやらせていただきました。ストーリーは各話の監督それぞれのコンセプトの元に作ったのです。例えば『border:1』はサスペンスですが、素子の自分の記憶に対する信頼が崩れていく形で書きました。『border:2』はカーアクションでしたが、自分のゴーストに対する信頼と対になる形で、人間だと思っていた相手に裏切られる、といった使い方をさせてもらっています。