第5節を終えた時点での湘南ベルマーレの成績は2勝1分け2敗。2年前と比べ、変わった点を探る

昨シーズンのJ2を制圧した無類の強さを引っさげ、2シーズンぶりとなるJ1の戦いに挑んでいる湘南ベルマーレ。劇的な逆転勝利と無念の惜敗を刻みながら、成長途上のチームは「湘南スタイル」を触媒として何を得ているのか。暴れん坊軍団の現在位置を追った。

「機は熟した」に込められた決意と自信

抑揚のない淡々とした口調は、武者震いを抑えているようにも聞こえた。

「機は熟したと思っている」。

新シーズンへの始動を前にして、ベルマーレを率いて4年目を迎えるチョウ・キジェ監督は胸中に秘めてきた決意を短い言葉に凝縮させている。

2010年シーズン、そして2013年シーズンに続くJ1への挑戦。最初はコーチとして、2度目は監督として国内最高峰の舞台に立ち、いずれも厚い壁の前にはね返されてきた。

しかし、3度目の今回は違う。選手たちとともに歩んできた軌跡に絶対の自信を寄せるからこそ、今年2月に発売した初めての著書『指揮官の流儀 直球リーダー論』(角川学芸出版刊)で、チョウ監督は今シーズンをこう位置づけている。

「これまでの3年間をたとえるなら、J2からJ1へ『旅』をしていたとなるだろうか。『旅』とは行く先々、つまりJ1でいろいろなものを見て、もともといたJ2へ戻ること。しかし、3年間で積んできた経験を踏まえたいま、これからはJ1に『住む』ことにしたいと強く思うようになった」。

5試合を終えた時点の成績が物語るもの

J1に定着していくための第一歩を刻むことができる――。チームとサポーターが「湘南スタイル」という理念を共有したと確信できる現在位置を、チョウ監督は「機は熟した」と表現した。

果たして、ファーストステージの5試合を終えた段階で2勝1分け2敗。白星のなかには、鬼門としてきた敵地カシマスタジアムで20年ぶりにもぎ取った劇的な逆転勝利が含まれている。2年前に初勝利をあげたのは7試合目、2勝目は5月のゴールデンウイーク明けだった。

快調に勝ち点を積み上げ、「進化」した姿をJ1のライバルチームに見せつける一方で、2年前をダブらせるような黒星もあった。

ホームにFC東京を迎えた4月12日の第5節。相手ゴール前で攻撃の精度を欠き、警戒していた日本代表FW武藤嘉紀にワンチャンスでゴールをこじ開けられて0対1で屈した。

「惜しかった」。

「いい試合だった」。

2年前も同じ言葉を何度もかけられたからこそ、チームを長く見守ってきた眞壁潔会長は自らに言い聞かせるように黒星を振り返った。

「点を取らないともちろん勝てないし、引き分けることもできないのがJ1なんだ」。

相手指揮官が漏らした本音

もっとも、FC東京が積んできたベルマーレ対策を振り返れば、2年前と状況が異なっていることがわかる。

イタリア人のマッシモ・フィッカデンティ監督は、ベルマーレに関する膨大な量の試合映像を収集。何度も見直した末に、「セカンドボールをいかに拾うか」を勝利へのキーワードに設定した。

決勝点となった虎の子のゴールも、一度下がってきてセカンドボールを収め、すかさず左サイドへ展開した武藤の献身的なプレーから生まれていた。

その一方で走力を前面に押し出し、執拗(しつよう)にプレッシャーをかけてくるベルマーレの映像が嫌というほど脳裏に刷り込まれたのだろう。チーム関係者に対して、同監督はこんな本音を漏らしてもいた。

「戦いたくない相手を3つ挙げるとすれば、ベルマーレは間違いなくそのひとつに入る」。

試合後の監督会見では、イタリア人指揮官はこう語っていたほどだ。

「湘南の監督を称賛したい。熱いハートの持ち主に率いられる選手たちからは、そう簡単に勝利を手にすることはできない」。

トラッキングデータが示す「湘南スタイル」

2年前によくかけられた「いいチームだ」という言葉には、1点差に泣く試合を続け、2試合を残してJ2降格が決まったベルマーレをねぎらう、もっと言えば同情する意味合いが強かった。

しかし、FC東京の指揮官の言葉が物語るように、今シーズンは明らかに嫌がられている。球際での激しいファイトと、攻守両面で常に相手よりも多い人数を掛け続ける泥臭さを身上とする「湘南スタイル」は、J2を制圧した昨シーズンの戦いを糧にしてさらなる「深化」を遂げていた。

Jリーグが今シーズンから試合ごとに明示しているトラッキングデータも、彼らの「深化」の一端を物語っている。数値を比較すると、選手全員の総走行距離では116.39kmに対して109.68km、スプリント回数(時速24km以上)では194回に対して167回といずれもベルマーレが日本代表選手4人を擁するFC東京を圧倒していた。

データはあくまでも参考にすぎないが、それでも選手たちが最後まで「らしさ」と「勇気」を貫いたことに、チョウ監督も「負けたけど悔いはない」と胸を張った。

「J1の厳しさというものを逃げ回って感じたのではなく、相手に仕掛け続けた結果として感じたので」。

「嫌悪感」を「怖さ」に変えていくために

FC東京に喫したシーズン2敗目は、今後の戦い方へのヒントも示してくれた。相手に抱かせた「嫌悪感」を、いかにして「怖さ」に昇華させていくか。眞壁会長が力を込める。

「相手のゴールキーパーの権田(修一)君を、慌てさせた場面があったかどうか。FC東京の選手が熱くなって試合が中断しているときに、権田君がわざわざチョウ監督のところに来て『ご迷惑をおかけしてすみません』と謝ったくらいだからね。常に余裕をもってプレーしていた」。

ゴールを予感させる場面は、残念ながら最後まで訪れなかった。ラストパスやシュートの段階でミスが重なったからだ。ほんのわずかなズレでも、J1の戦いでは大きな差となってはね返ってくる。

「だからといって、走るのをやめたら我々のよさは何も出ない。選手たちのいい部分を、もっともっと引き出してあげることが監督の最大の仕事だと思っているので」。

2年前よりもはるかに地に足をつけて戦えている――。確かなる手応えを感じているからこそ、チョウ監督はベルマーレの現在地を信じ抜いていくことが、J1の「住民権」を手にするための唯一の道になると力を込めた。

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筆者プロフィール: 藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。