続いて、トークセッションI「『こうのとりのゆりかご』と赤ちゃん縁組」がスタート。Part1ではサヘルさんの進行のもと、赤ちゃんポストで知られる「こうのとりのゆりかご」を展開する慈恵病院(熊本)の理事長・院長である蓮田太二氏、元同病院看護部長・相談役の田尻由貴子氏が登壇した。蓮田氏は「こうのとりのゆりかご」を作ることになったきっかけは2004年にドイツ視察で見た赤ちゃんポストであったとし、「ドイツでは、預けられた赤ちゃんが施設ではなく、みんな家庭で育つということになっており、それが心に響いた。日本では施設で育てるのが当たり前になっているが、赤ちゃんは家庭で育てることがとても大事。特別養子縁組により、養子を希望するご家庭で子どもをしっかり育てるほうがいい。社会や行政が、その大切さを理解してほしい」と述べた。

田尻氏は「預けにくる親は、20歳未満が20%、20代が43%。中学生、高校生、専門学校生などが妊娠してしまう現実がある。背景は人それぞれで、妊娠してしまった人を責めないのが大事。本人がいちばん心を痛めているので、すべてを受け入れ、親身になって聴き、共感する。子どもは(特別養子縁組を活用し)どんな事情があっても、家庭で愛情深く育てられるのがもっとも大事」だとした。

赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」設置までの想いを語る、慈恵病院理事長・院長の蓮田太二氏

妊娠してしまった女性への共感の必要性を説く、元慈恵病院看護部長の田尻由貴子氏

別養子縁組で養子となったお子様をまじえて体験談を話す2家族

Part2ではNPO法人ファザーリング・ジャパン、タイガーマスク基金代表理事の安藤哲也氏、元愛知県児童相談所職員の矢満田篤二氏、そして実際に養子縁組で家族を持った当事者である大木愛氏が登場。まず安藤氏が父親の育児参加の重要性を指摘し、「自分の子どもだけが幸せな社会はない。自分の子どもを幸せにしたいなら、地域で困っている子どもたちや親たちに手を差し伸べて、共に生きていくことが必要」と述べた。矢満田氏は、赤ちゃんを施設に入れずに直接養親に託す「愛知方式」の取り組みを始めた人物。特別養子縁組を先頭に立って推進してきた立場から、これまでの特別養子縁組の事例を紹介した。大木氏は、産みの親と養親への感謝や、真実告知(子どもに養子であることを知らせること)について経験を語った。

トークセッションII「子どもを迎えて」では、安藤氏の司会のもと、特別養子縁組を行った2組の親子が登壇。養子縁組をしたきっかけ、周囲が好意的にとらえて応援してくれていること、真実告知の準備などについて語った。父親のひとりは「やっぱり親ばかになる。愛情を込めて育てるのがいちばん。本当に家族になったという実感がある」、もうひとりの父親は「この子がきて、自分たちふたりはもちろん、自分たちの両親も含めて、みんなが幸せをもらっている。特別養子縁組というが、特別なことをしているつもりはない。世の中に普通にある選択肢になっていくといいと思う」と述べた。

豪田トモ氏とサヘルさんの対談の様子

イベントの最後に、血のつながらない家族、障害のある子どもを持つ家族など、家族のつながりをテーマとした映画「うまれる ずっと、いっしょ。」の監督である豪田トモ氏とサヘルさんの対談が行われた。豪田氏は、「今回の映画では、家族ってどうやってつくっていくのか、血のつながりとはなんなのか、というところをご覧いただけたらうれしい。キーワードは『向き合う』。血がつながっていようがなかろうが、向き合うことが、人生にとって大切」と、映画に寄せる想いを語った。

イベントの終了後、映画「うまれる ずっと、いっしょ。」が上映され、4時間に及ぶイベントは盛況の中で幕を閉じた。