昨年2014年は1ドル=120円まで円安が進行。1ドル=78円近辺だった2012年が嘘のようだ。「1ドルがいくらかなんて、海外旅行にいく時ぐらいしか気にしない」という方もいるだろうが、今はそうも言っていられない状況にある。
一部資産家には「日本の円は価値がどんどん安くなっているから、今のうちに資産をドルに換えておこう」などの動きがあるのも事実。今の円安状況の重大性に気づき、いち早く動いている人もいるのだ。
そして「今の円安と昔の円安を同じように考えていると、痛い目を見ます」と警鐘を鳴らすのは水上紀行氏。為替ディーラーとして「プラザ合意」の時代も経験した、業界歴30年以上のバーニャマーケットフォーカスト代表 水上氏に「日本の円」が今どのようになっているのか、そして2015年度以降はどうなっていくのか、解説していただいた。
2014年度も大きく「円安」が進行、なぜ円安は止まらない?
「2014年は何といっても大きく円安に動きました。円安をリードしている原因のひとつには実需取引の影響があります」
と水上氏は語る。実需取引というのは輸入企業が海外の企業へ支払いをするために、円資金をドルなどの外国通貨に両替すること。
「そして、日本は2011年以降に貿易収支が赤字に転落したことで、今までにない局面を迎えています。実需取引で円売り・ドル買いが多くなってしまうのもしょうがないこと」
日本は輸出大国として戦後、貿易黒字を維持する期間が長かったが、現在は貿易赤字に転落してしまった。
「日本はずっと貿易黒字でやってきましたが、現在ものすごい勢いで貿易赤字が膨らんでいます。リーマンショック後の2009年でも日本は約10兆円近い貿易黒字でしたが、2011年に貿易赤字となり、その額3300億円。3年後の2014年には12兆7000億にまで膨らんでいます。私たちは、経験したことのない時代に突入しているのです」
日本企業は海外からたくさんの商品を購入している。その支払いは原則的にドルなので、多くの企業が大量の円を売ってドルを買っている、そうなれば当然、円安・ドル高の傾向になる。
「根本は、さまざまな産業で輸入依存体質になってしまったことです。外食産業は輸入食材に頼り始めました。IT機器なども多くが海外製品になり、最近では国産自動車でも海外工場で生産した完成車を輸入するといったことも起き始めています」
デフレに悩まされていた時代から輸入依存の流れが定着し、2011年3月の東日本大震災が起きた後は、原子力発電所が停止され、石油や天然ガスなども大量輸入することになった。
2015年度以降の日本円はどうなる!?
「2014年は夏まで1ドル=103円程度だったのが、秋になると急激に上昇。2014年の年末には1ドル=120円になっていました。日本は貿易赤字に転落した2011年から、『長い凪(平均して6カ月)⇒急激に円安』という前例にない現象を繰り返しています。私は貿易黒字時代の経験がほとんどで、最初はこの貿易赤字下の"急激な円安現象"に困惑していました。他の市場関係者の方々も貿易黒字時代の経験が長いと思いますが、昔の経験則ではあてはまらない時代に、今は突入していると思います。2015年度も同様に、急激に円安になる時期が来るでしょう」
1985年以降の日本円と米ドルの関係図を見ると、貿易黒字時代の1ドルあたりの日本円の価格推移と貿易赤字になった2011年以降とでは動きが異なっている。貿易赤字による円売り・ドル買いが止めどなく出てくる影響で、最近は円高への動きも限定的になっている様子。
「関係者の間では、2017年に1ドル=160円という数字を口にする人もいます。図の通り、1ドル240円の貿易黒字時代があったことを考えると、逆に貿易赤字が拡大している今、1ドル=160円というのはなにも突飛な数字ではないのです」
円安対策は外貨預金だけではない!? 意外な対応策とは?
円安が続くようであれば、価値が安くなる円をドルなどの外貨に換えて置くのは有効手段。円安対策は外貨預金だけが手段ではない。意外だがFXでも良いのだ。FXと聞くと「初心者にはハイリスクなのでは?」と身構える方もいるかもしれないが、それは短期取引を目的とした場合。長期運用なら資金効率の面で、FXは円安対策の選択肢になりうる。
例えば通常、円を1万ドルに換えようとする(取引しようとする)と、1ドル=100円のとき、100万円が必要になる。しかしFXの場合、差金決済という仕組みのため、1万ドル分の取引は約4万円程度から取引可能だ(※手数料等は考慮に入れていない)。
そして1ドル=100円のときに買った1万ドルを1ドル=120円のときに売れば、20万円の利益になる。外貨預金するほど大きな資金がなくとも、円安対策はできるのだ。大儲けを狙わず、一時的に円をドルに換えて置く程度ならFXでもいい。金融先物取引業協会のデータでは、店頭FX業者の2015年1月の月間出来高は661兆円と最高値を記録しており、圧倒的に取引されているのは「ドルと円」だった。円安の対策としてFXをしている人が多くなっている可能性もある。
長期的な視野での運用がおススメ
また水上氏も長期的な視野での運用をおススメする。
「長い目で見れば円安になると思いますが、一時的に円高に振れる時期もあります。初心者は短期目的ではメンタルにキツいのでやめたほうがいい。ドルの買い時も難しいところ。そういった意味ではFXをやるにしても自動売買(システムトレード)が有効な手段になりうると思います」
自動売買とは「売買プログラムに取引を任せる」運用方法。最近ではFX会社が「プロ投資家作成の売買プログラム」を取り揃え、顧客はそれを選ぶだけで始められるサービスもあることから、初心者の利用が増えているという。同サービス提供会社では国内最大手のインヴァスト証券によれば、 2015年2月の口座開設者の約半数はFXの経験が1年未満、とのこと。
大きく外貨に換える資金はないが、円安対策に取り組みたい方は、外貨預金以外の手段も検討したほうがいい。貿易赤字から抜け出せない限り、円安懸念は続くので、円だけで資産を保有しておくのではなく、外貨にも目を向けながら、資産形成を考えなければいけない時代になったといえるだろう。
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